しかしまた不可解なことが起こった。コンクールに向けてのキャストが発表されたのだけど、僕には台詞付きの役が当たったのに、沢渡は裏方に回ることになったのだ。上柳さんももちろん台詞付きの役だ、なのに沢渡は何故?・・・部長からは、名前の発表があっただけで理由の説明はなかった。
「何がいけなかったのだろう?」
部活が終わるまでは平静を装っていた沢渡だったけど、車に乗り込むと、あからさまに落胆の表情を見せた。それは僕だって聞きたい、でも先輩方の決定には逆らえない。
「どうして僕は役をもらえたんだろう・・・」
辞退して、彼に役をあげたいくらいだ。
「朝霧はよかったよ。うん・・・」
「いや、君は僕なんかより数倍上手だったよ。立派に主役を務めていた」
「でも、コンクールには出させてもらえない・・・」
それは事実。僕も、何て言葉をかけたらいいのか分からない。・・・こんなことがあるなんて。
その時、携帯が震えたらしく沢渡が電話を耳に当てた。・・・どうやら、今回の配役に関してのことのようだ。
「うん。・・・うん、君が気にすることはないよ、先輩たちが決めたことだから。・・・心配してくれてありがとう」
上柳さんかな?
「こればかりはしょうがないよね。まだ1年生だし、チャンスは来年、再来年もあるわけだから」
彼は白い横顔を見せながら、その薄い携帯を胸ポケットにしまった。
「いいよ、朝霧も気にすることないから」
そう言うと、彼は車を停めさせて、そのまま降りて行ってしまった。