今日の部活では、台本の読み合わせが行われて、僕は清水先輩の隣で、その様子を見ている。
「そこは思い切り弾けて」
「そこはもう少しかわいく」
部長が実に細かく指示を出していく。・・・そう思うと、僕は今回舞台裏で本当によかった。どんな感じで練習を進めていくのか、先輩方はどんな演技をするのか、というのが分からないまま役をいただいていたら、混乱したはずだ。現に朝霧は非常に緊張した顔をしている。彼も晩餐会ではソリストを務めるという大役を仰せつかっているのに、大変だな・・・。
「沢渡くんは、劇場に足を運んだことある?」
休憩時間、清水先輩が尋ねてきた。
「何度か連れて行っていただいたことはあります。生の躍動感に勝るものはありませんよね」
僕が演劇に興味を持つようになったのは、殿下のお供をさせていただいてからだ。
「じゃあ、この芝居はどう?」
どう・・・って。
「面白いと思います」
「いいえ、そんな普通の感想じゃなくて、芸術的な立場から見てどうって聞いているの」
気がつくと先輩の顔が真剣になっていた。・・・この人はとても高いところを目指しているみたいだ。単なる部活だと侮っていてはいけないな。
「はい。もしお金を払うとしたら、800円というところでしょうか」
「800円?」
「このままでは単なる学芸会です。芸術的に高めたいというのであれば、発声や発音を確実にして、もう少しテンポを上げてみてはいかがでしょうか?」
先輩は首を傾げながら台本をペラペラとめくり始めた。
「そうね・・・せめて、4500円くらいにはしたいわね」
・・・先輩こそ、また微妙な数字ですね。その根拠は何ですか?