その上品で淡い緑色の封筒を見つけたのは、朝ロッカーを開けた時だった。・・・というか、ロッカーには鍵がついているのに何故?と思ったのだが、薄い紙なら入らないことはない隙間が確かにある。
・・・これはもしや見られてはいけないものではないか?思わず辺りを見回した僕は、逆にそんなことをすると怪しいと思い直して、咄嗟に取り出そうとしていた教科書の隙間に挟み込み、教室へと持っていった。
意外とドキドキするものだ。こんな手紙をもらうのは初めてのこと・・・。月が替わり運良く一番後ろの席になった僕は、授業中にこっそりとそれを開けてみた。
“沢渡くん、放課後視聴覚室に来てくれませんか?”
やはり・・・。女の子らしくかわいらしい字。しかしいったい誰だろう?どうやって断ろうか。
そして放課後、考えた末、朝霧には少しだけ待っていてもらうことにした。どうせ長くはかからないだろう。行かないという選択肢も考えたのだけれど、折角勇気を出して手紙を書いてくれたのに、それにきちんと応えないのは失礼だと思った。
「・・・あ、ごめんなさい。わざわざ来てもらって」
部活がないため、特別教棟は全く人気がなかった。そこで待っていたのは、隣のクラスでクラス委員を務めている女の子だった。
「何?」
「いや、あの・・・その・・・」
見る間に彼女は真っ赤になり、下を向いてしまった。・・・いや、目の前でそんなことをされると、こっちのほうまで恥ずかしくなる。とはいえ、何も言われていないのに、僕のほうから何か言うのもどうか?と。
「・・・あの。沢渡くんって彼女はいるの?」
うわっ。決心がついたのか、彼女は今度は急に顔を上げて、じっと僕を見上げてきた。
「いや、いないけど、・・・君とはそういう関係にはなれないから。それじゃ」
あ、と、彼女はまだ何か言いかけたが、僕にはもうそこにいる理由がなかった。すぐに立ち去ってしまいたかった。
・・・僕が踵を返して歩き始めると、背後からすすり泣く声が聞こえてきた。マズイ。でも僕にしてあげられることなんてない。ああ、だんだんと手先が冷たくなっていくのを感じる。もし僕が彼女と同じ立場だったら、当分は立ち直れなくなりそうだ。