基本的に人と触れ合うのが好きなので、晩餐会も好きだ。普通はこのテのお集まりとなると社交辞令だけになってしまったり、逆に変に相手を探り合ったりするそうなのだが、僕は本気で親しくなりたいと思っている。だから、ある人のことを気に入ったら、実際にその人の国を訪れてみたり、お忍びで国内を案内したり、メールをマメに出したりする。個人的に親しくなることは、仕事の成功にもつながると思う。ただ、それは僕にはあくまでも結果論で、打算でそうしているわけではない。ごく自然のことだ。
沢渡くんの印象もよさそうだ。何せ、僕が自信を持ってお奨めできる人材なのだから、当然といえば当然なのだけど、受け答えもスムーズで、安心して見ていることができた。そして朝霧くんも、素晴らしい演奏を聴かせてくれたので、何人かの方に紹介させていただいた。やはり、芸術は国境を越える。美しいとか、素晴らしいとか思う気持ちは、人間ならば本来誰でも持っているはずだ。だから、国、そして世界をつなぐ架け橋になってもらいたいと思う。
「響殿下。・・・今、いいかな?」
「うん、いいよ。じゃあ、あっちのソファーで」
モーリス殿下は、僕と同じく皇太子であること、そして年も同じであることから親しい友人の一人となっている。
「お願いがあるんだけど」
「何?」
僕よりもはるかに長身で、はるかにハンサムな男が、身をかがめて僕に耳打ちしてくる。
「頼むから息抜きさせてよ。ウチの国は最近ゴタゴタしていて、外出すらままならない。だから」
彼の王国は世襲制で、小さい頃からしっかりとしつけられて、やがては彼も国王になる。彼に限らずそういうれっきとした王子たちは、僕のような自由な生活が羨ましいともらすことが多い。僕もプレッシャーは感じるけれど、彼らから聞く話よりはまだ楽みたいだと思う。
「それなら、明日の夜、こっそり出かけようか」
「これでこそTakaだ。迷惑はかけないから、よろしく」
「分かったよ」
同じ立場でしか分かち合えない苦労もあるのだ。