会いたいと言われても、彼を連れて彼女の家に行くのはさすがにまずい。かと言って、こんな時間ではどこかに来てもらうのも申し訳ない。しかしこのままでは彼の気が収まらないだろうと思い、電話だけはしてみることにした。
「夜遅くにごめんね。モーリス殿下がどうしても君の声を聞きたいと言うから弱っているんだよ」
聞きたい、違う、会いたい、だ、と急に横から声がしたので驚いた。・・・この間会った時には、ホーンスタッドの言葉は話せないと言っていたはずなのに。
“嘘。隣にいらっしゃるの?”
「随分とご機嫌でね」
・・・半分、ただの酔っ払いだ。
“でも言葉が通じないわ。それに何て言えばいいのか”
「通じないところは通訳するよ」
でもすっかり話をする気になっているのにも困ったものだ。・・・所詮、女はいい男には弱いものなのか。
仕方ないので、モーリス殿下の電話もつないで、三人で話をすることにした。
「初めまして、Mai。Maulisです」
“こちらこそ初めまして。お話しできて光栄です”
変なことは言わないでよ、と、一応モーリス殿下に目で釘を刺しておく。
「あなたは、Takaの、どこが、好き、ですか?」
またそんな、いきなり。変な汗が出てきそうだよ。
“どこ、と聞かれても難しいのですが、・・・私には彼しかいないのです。理屈ではありません、直感です”
・・・モーリス殿下には少々難しかったらしく僕を見てきたので、訳してあげた。もちろん、言葉を違えることなく直訳で。
「いつ、それを、感じました?」
“初めて逢ったときから、何となく感じていました。ただ、その時は一緒にいれたらいいな、ぐらいだったのですが、それが確信に変わったのは、彼の入宮が決まったときです。今手放したら一生会えなくなると思いました”
舞・・・。今度は僕のほうが感動する番だよ。そうだね、あの時君が引き止めてくれなかったら、僕たちはどうなっていたのか分からない。
「Taka、訳して」
はいはい。照れ臭いけど、今度もまた言葉通りに訳す。モーリス殿下の前ではっきりと言ってくれて嬉しいよ。
「なんだ。僕は恋愛の極意を聞きたかったのに、結果的には君たちの距離をより近づけたことになったみたいだね」
ほら・・・。だから、余計なことはしなくていいのに。
「でも、ちゃんと極意も教えられたよ。会ってみなければ予感を感じられない。・・・僕も初めて逢ったとき、彼女と一緒にいられたら、と思ったんだ」
「愛があれば、どんなことも乗り越えられるというわけだね」
そうストレートに言っていただけると逆に困るのだけど・・・、モーリス殿下ともあろう人が僕たちなどから学ぼうとするなんて意外だ。