俺の役職は、王宮顧問兼沢渡の教育係。沢渡の教育は大体終わった上、今は学校に行っているので、前者が主な仕事だ。陛下や響のサポート役として、状況に応じてどちらかに付き添うこともある。我が国の王宮では、年齢はほとんど問題にならないからいい。逆に、年をとると考えが固定化しやすくなるため、敬遠されるようになるくらいだ。・・・俺は枠にはまらずに済むこの仕事が気に入っている。
今夜は陛下の執務室であれこれ確認作業をさせていただいていると、響の来室を告げるアナウンスが流れた。
「はい」
「少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
やけに改まった表情で、言う。・・・どうしたんだ?
「別に構わないが、何だね?」
陛下もまた座り直して、机の上で指を組まれる。
「私事で恐縮なのですが、そろそろ結婚したいと考えております」
「本当かね!」
そうか・・・。ついに思い切ったか。これには俺も初耳だったので驚いた。
「はい。つきましては一度陛下にお目通りをと思いまして、ご都合を伺いに参りました」
「それはめでたいことだ。いつでも都合がつく日にお呼びしなさい。響くんにとっても、正式な場に同伴者を連れて出席できるようになると、仕事もやりやすくなるだろう。祝福するよ」
ありがとうございます、と響は深々と頭を下げた。
響が長い間一人の女性と付き合っていることは、陛下もご存知だ。何せ響は、ふらっと彼女の家を訪ねたり、そのままデートに行ってしまったりと、時々警備泣かせのことをしでかすからだ。我が国の皇太子なのに・・・。でもそんなことが黙認されてしまうのも、ひとえに響の人柄ゆえだろう。一人の女性の前では、一般国民とは何も変わらない一人の男でいたい、その姿勢が陛下にも誠実だという印象を与えているようだ。
「俺からも、おめでとう」
響はやっと笑顔を見せて、ありがとう、と言ってくれた。