5/28 (木) 22:30 秘密

響には軽い睡眠障害がある。いつ頃からなのかはっきりしたことは分からないが、皇太子になってからひどくなってきているのは確かだ。

まず、仕事が忙しくなってくると、とにかく眠れなくなるらしい。本人としては眠らなくても大丈夫と思っているらしいし、客観的に見ても仕事に影響が及ぶようなことはない。ただ、実際に寝た時間を聞いてみると少なすぎるため、例えば酒を飲ませたり、安定剤を飲ませるまたは注射するなどしてとにかく寝かせるようにしている。

その一方で、休日になると丸一日起きてこないこともある。どうやらそれで睡眠のバランスを取っているようなのだが、休日自体が少ないし、あまりに寝すぎるとそれはそれで二度と目覚めないのではと心配になるので、安心できない。それゆえ頻繁に極秘メディカルチェックをしているわけだが、原因はやはり仕事へのプレッシャーだろう。その意味では、舞さんがそばにいてくれることが症状の緩和につながってくれるといいのだが・・・。

響は人当たりがよく社交的なため、国民にも人気がある。彼は本当に人と触れ合うのが好きなようで、いつも穏やかにして気取ったところは全く見せない自然体な男である。・・・沢渡が王宮の中で最初に心を開いたのも響だった。

当時、今から思うと俺は完全にやさぐれていた。政官コースにいたものの1点差で皇太子への道は閉ざされ、もうどうでもよくなっていた。しかもその時に、子どもの面倒をみろと言われたのだ。一時は本気で退宮することも考えたけど、俺は負けた相手のことが嫌いだった。見返してやりたい、その一心で沢渡の教育係を引き受けた。そしてその頃の沢渡もまた荒れていて、何人もの教育係をクビにしていた。しかし、そんなときお互いに響に会い、徐々に落ち着きを取り戻していった。

沢渡は今でも、響に対して尊敬の姿勢を崩さない。響は「年こそ違うけれど、同期なんだから」とくすぐったそうにしているが、沢渡にとっては、暗闇に光を届けてくれた救世主のような存在に見えるらしい。確かに、俺にとっても響は気のおけない仲間だ。俺は基本的に群れるタイプではないのだが、仕事が出来る上に人間もできている、しかもどことなく放っておけないようなかわいげのあるヤツ、には弱いらしい。

そんな彼のためにも、秘密は守ってやらなければならない。

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