案の定、母は僕より浮かれ始めた。
「殿下にお目にかかるなんて、いつ以来かしら?何を着てお迎えしたらいいの?」
「別に普通の服でいいよ。改まった服装だと、かえっておかしいじゃないか」
「でも相手が殿下となると、失礼のないようにしないと・・・」
「下手にお引止めしたら近所に目立って、余計にご迷惑がかかるよ。・・・大丈夫、そのままで十分綺麗だから」
・・・僕の顔は母似だ。僕が綺麗だというのなら、母も綺麗ということになる。
「分かったわ。普段の殿下はどんな方?」
王宮は規制が厳しいところで、入宮者の家族たりとも宮殿の面会室より先には入れない。よって母も、殿下とは何度か電話で話したことがあっても、会ったことはほとんどないはずだ。僕が紹介するというのも、畏れ多いことだし。
「殿下に関しては本当に表裏がないから、イメージ通りだと思うよ。面倒見がよろしくて、料理がお得意、そして今回みたいに神出鬼没」
「まあ、お料理をなさるの?」
「うん。僕も何度かいただいたことがあるけど、とても美味しいよ」
「へえ~、希は教わらなかったの?」
・・・だから、それは。
「結城は家事に興味がないから、僕もその機会がなかったんだよ。でも僕は、部屋はわりと片付けるほうだと思うよ」
「え?それは殿下とは違ってってこと?」
あ・・・、殿下の名誉のために、これは言うべきではなかったか。もちろん仕官が片付けているので汚いということはないのだけど、部屋はいつも物で溢れている。それはそれで殿下らしいので、僕は好きなのだけど。