連れてきていただいたのは、首都の夜景を一望できる高層レストラン。
「こういうところに、よくいらっしゃるのですか?」
「人と会うことが僕の仕事なんだよ。それは必ずしも王宮の人とは限らない、となると、おのずといろいろなお店を覚えるというものだよ」
なるほど。さっきも駐車場で、人気バンドのメンバーをお見かけした、と思ったら、殿下はお知り合いだったようで気安く挨拶をされていた。僕の母ではないけれど、殿下は凄い、と思ってしまった。
「ところでその、沢渡くんの相談のことなんだけどね」
はい・・・。注文されるやいなや単刀直入におっしゃったから、一瞬驚いてしまった。
「実は僕も、結城がそんなことを言うなんて思っていなかったから戸惑っているんだ」
やはり、殿下は結城と対応策を練られたんですね。
「僕は沢渡くんを応援するつもりでいるのだけど、沢渡くんの今の気持ちは?どうしたい?」
どうしたい?って・・・。でも、殿下が応援すると言ってくださった以上、素直に打ち明けるのがよさそうだ。
「僕は有紗さまのことが好きです。有紗さまと親しくさせていただくようになってから、僕はいろいろなことを知りました。例えば・・・、僕は女性を好きになる気持ちすら今まではよく知りませんでした。彼女といると、僕は他の誰でもない自分でいることができます」
なるほどね・・・と殿下がおっしゃったところで料理が運ばれてきて、話は中断した。とても美味しそうな料理ばかり。殿下はその料理の説明をしてくださりながら、答えを探していらっしゃるようだった。
「僕はね、恋愛は経験しないことには何も始まらないと思うんだ。こればかりでは理屈ではない」
そしてなんと、来年の秋に結婚される予定だと打ち明けてくださった。それはおめでとうございます。
「ありがとう。ただ僕は、一人の女性としか付き合ったことがないんだ。だから説得力には欠けるかもしれないけれど、それでも何度もケンカしたりすれ違ったりしたからこそ、今があると思う。僕には仕事が何より大切だけど、彼女がいてくれることで僕個人のエネルギーが補給されて、仕事に励むことができている。その一方、彼女とトラブルがあると凹むのは事実だよ。でもトータル的には大きくプラスになっているから、僕は恋愛を薦めたい」
・・・穏和な殿下が彼女とケンカなさるところは、想像できない。そうさせてしまう舞さんは、殿下より凄いということか。
「それから僕は、有紗さんというお相手は、立場的には悪くないと思っている。もともと陛下がお近づけになられたのだから、何かしらのことを期待されていたのかもしれない。ただ・・・、有紗さんは沢渡くんに優しいの?」
「はい、とても」
会うたびに、僕を愛していると囁いてくれる。
「それなら問題ないんだけどね」
「殿下には優しくないんですか?」
そう申し上げると、殿下は肩をすくませた。
「どうかな?よく分からないよ。意外と接点がないんだ」
そんな・・・。殿下が分からないとおっしゃるなんて。
「僕の印象は別にいいんだよ。二人にしか分からないこととか、特定の相手にしか見せない顔ってあると思うから。・・・それはともかく、わざわざ別れる理由はない、と今日話をしていて改めて思ったよ」
「そうですか、ありがとうございます」
「結城には僕から言っておくから」
申し訳ありません、ご迷惑をおかけして。でも本当に殿下は素敵な方だと思う。こんなに気さくに相談にのってくださるなんて。僕もそんな皇太子になれるかな?