殿下からの後押しをいただいたからなのか、有紗さんの声が聞きたくてたまらなくなった。でもそれでは僕たちのルールを破ることになってしまう。会うのは週に一度だけ、メールはいいけど、電話はしないこと。
加えて、帰宅して間もなく雨が降り始めた。宮殿は機密性が高く空調設備が万全のため、外の様子が気になることはほとんどないのだけど、自宅では、派手な雨音に加え蒸し暑さも感じられる。・・・とても快適とは言えない。そして肉体的にそう感じると、何だか心までじめじめしてくるようで困る。・・・宮殿に戻りたい。もしくは有紗さんの声を聞きたい。・・・こんな気持ちになったのは初めてだ。
しかし、ルールゆえ電話番号は教えていただいていない。それでもこのままでは眠れそうにないので、せめて、とメールを書くことにする。
件名:外は雨です
本文:こんな夜は気が滅入ってしまい、頭に浮かぶのはあなたのことばかりです。ほんの少しでいいです。声を聴かせてください・・・。
“あなたのほうから私を求めてくれるなんてね”
メールを送ってからしばらくすると、無事に電話が鳴り響いた。
「僕自身、こんな気持ちになるなんて初めてで驚いています」
“だったら、私は雨に感謝するわ。雨はあなたをナーバスにさせる”
「有紗さんがそばにいてくれたらいいのに・・・」
“私にどうしてほしいの?”
「・・・いいえ、有紗さんはいてくださるだけでいいです。・・・あなたに触れたい、そして抱きたい」
“ダメよ”
どうして?・・・昂ってきた感情が、一瞬にして静まり返る。
“土曜の夜までは会えないのに、困らせないで。・・・私も会いたくてたまらなくなる”
そうだ。こんなことを口に出してしまったら、余計辛くなる。・・・所詮声だけで、触れられるわけではないのに。
“あなただけが辛いわけではないのよ。お互い頑張って、明日の夜まで待ちましょう。その代わり、会えたときには、息もできなくなるほど愛して”
分かりました。・・・僕のすべてで、あなたを愛します。