部活では、地区予選が近づいてきたことで、徐々にピリピリとした雰囲気が漂い始めている。私は中学のときに演劇部に入っていて、その楽しさを知った。そして進学先を決めるに当たって・・・親が選んだこともあるけど、望月さんや兼古さんというカッコイイ人が在籍しているというのは都内の学校では有名だったので、クリウスを受験した。
でも実際の望月先輩は、私たち一年生のことはあまり相手にしてくれない。しかも、沢渡くんを敢えて役から外すなんて・・・。
一方兼古先輩は、その沢渡くんとよく話をしている。清水先輩と沢渡くんがいいチームワークで演出をしているからだろう。でも兼古先輩は、とてもオープンで社交的だけど、結局は彼女である清水先輩しか見ていない。現実とはこんなもの・・・。
今回の私の役は、いかにも一年生という感じで先輩にくっついている女の子。何かあるとすぐに「せんぱ~い!」と言うので鬱陶しい女の子だけど、作品的にはアクセントになって面白い。でもそれだけに、かなり弾けた様子で演じなければならないので難しい。
「はい、そこまで。見るからに鬱陶しそうでいいね~。あ、今のは誉め言葉だから」
部室内で笑いが起こる。やっぱり、部長に誉めてもらえると嬉しい。
「じゃ、しばらく休憩します」
ホッ。出演シーンは多くないのだけど、中学と高校では作品のレベルが違うから緊張する。
「まゆ、よかったよ」
「ありがとう」
今回の作品では小道具係になった沙紀が、ジュースを手渡してくれる。結構運動量が多い上に喉を使うので、冷たい飲み物は嬉しい。
「ねえ、もし沢渡くんがこの芝居に入るなら、どんな役をしていると思う?」
え~、それは難しい。すでに様々なタイプの人がいる。でも王子系な人はこの作品には合わないだろうし、クールな役だと、あまり目立たなそうでもったいない。
「そうか、沢渡くんが入る余地はないんだ・・・」
この作品は、あらかじめ2、3年が出演することを想定して作られたものだった。だからそれに合いそうな人だけが役をもらえたに違いない。コンクールまで日がないのに全面的に書き換えるなんて無理。それで沢渡くんを役から外したのかもしれない。
「沢渡くんには主役級の役じゃないと。そうね、例えばビジネスマンとか?」
「ビジネスマンが登場するなんて、どんな芝居よ」
・・・そういう意味では、カッコイイ男の人は苦労することもあるみたい。1年生が目立ちすぎると、先輩方は面白くないだろうし。