祐輔は役に入り込むあまり、私生活にまで引きずるところがある。でも大事なのはコンクールでいい成績を収めることだし、彼の今回の役は少々荒くれているという設定なので、このままのほうがいい気がする。・・・本人的には、結構イライラしているみたいだけど。
私は、いいものはいいと言う主義。それでいくと、沢渡くんは鋭い観察眼を持っている上に知識が豊富なので、私も驚かされることが多い。まずは外国語がとても堪能なのが羨ましい。発音もとても綺麗だったし、特別にお願いして教えてもらおうかなとも思う。
「沢渡くん、夏休みにお芝居のはしごをしてみない?ぜひ感想を話し合ってみたいわ」
部全員でお芝居を観に行くこともあるけれど、小回りが利かなくて困る。私は小さな劇場の作品も結構好きだ。
「あの・・・、お誘いはとても嬉しいんですけど、夏休みは少々忙しくなりそうなんです」
あれ?・・・そうなの?
「はい。まだはっきりとしたことは分からないんですけど、ある程度はまとめて休みをいただこうと思っています」
「ねえ、それ部長には?」
「まだ相談はしていませんが・・・夏休みの部活って、どのくらいあるんですか?」
どのくらいってねえ・・・。でも沢渡くんにいてほしい。部長が・・・やむをえない事情だったにせよ今回のコンクールで沢渡くんを外したおかげで、微妙な空気が流れていることは事実。少し手間がかかっても、大幅に脚本を書き直して彼に出てもらいたかった。・・・それは練習が進めば進むほど感じることだった。だから文化祭には大きな役についてもらいたいと思うし、そのための練習が行われる夏休みには、しっかり顔を出したほうがいいのに・・・。
「沢渡くん、今度は舞台に立ちたいよね?」
彼の整った瞳が、まっすぐ私をとらえた。
「はい」
「だったら、できるだけ部活に来て。このままだと、何だか負けたままみたいで嫌じゃない?」
はい?と彼の顔に一瞬曇りが浮かんだ。
「僕は別に負けたなんて思っていませんよ。だって1年ですし、演技経験もありませんから、当然といえば当然じゃないですか?失うものなんて何もありません」
・・・私が一人で先走っていたのかな。