6/19 (金) 17:00 心地よい緊張感の中で

「先輩、頑張ってくださいね」

と、沢渡が晴れやかに言う。

「俺が頑張れるかどうかは、お前の小道具の渡し方で決まるんだから、頼むよ」

「そんなことで変わってしまう先輩なんですか?」

・・・そんなわけないに決まってるじゃないか、冗談だよ。

「それともまた、花束抱えて待っててくれるとか?」

「先輩がお望みならそうしますよ」

おい、真顔で答えるな。

「本当か?髪の毛を下ろしてって約束だぞ」

「それは・・・全く先輩は、何がお望みなんですか」

「いや、アップのほうがいいかな?」

「祐輔!」

・・・美智、いきなり現れるなよ。これでも緊張をほぐそうと必死なんだから。

「清水先輩、兼古先輩が絡んできて困ります」

「ゴメンね沢渡くん、祐輔はホントに大人気なくて。舞台に立つと変わるんだけどね」

「そうですよね、舞台上の兼古先輩に憧れます。明日は本当に楽しみです」

・・・それって、誉めてるのか?けなしてるのか?

「祐輔、明日はよろしくな」

帰り際、部長が声をかけてきたので、はい、と固い握手をする。大きな舞台に立つことは、緊張するけど楽しみでもある。スポットライトが当たり、多くの観客が俺だけを見てくれる・・・あの瞬間にはたまらないものがある。今年はメインキャストの一人になり、去年より格段に見せ場が多くなった。俺は、俺の役割をきっちりと果たすのみ。まずは地区予選を突破することだ。

昨日電話で話した美智のお願いも気になる。全国大会で優勝したら・・・それはかなり難しいことだけど、明日の予選をいい足がかりにしたい。

「じゃあ、明日頑張ってね」

美智が唇の端にキスしてくる。

「ああ。楽しみにしていろよ」

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