「先輩、頑張ってくださいね」
と、沢渡が晴れやかに言う。
「俺が頑張れるかどうかは、お前の小道具の渡し方で決まるんだから、頼むよ」
「そんなことで変わってしまう先輩なんですか?」
・・・そんなわけないに決まってるじゃないか、冗談だよ。
「それともまた、花束抱えて待っててくれるとか?」
「先輩がお望みならそうしますよ」
おい、真顔で答えるな。
「本当か?髪の毛を下ろしてって約束だぞ」
「それは・・・全く先輩は、何がお望みなんですか」
「いや、アップのほうがいいかな?」
「祐輔!」
・・・美智、いきなり現れるなよ。これでも緊張をほぐそうと必死なんだから。
「清水先輩、兼古先輩が絡んできて困ります」
「ゴメンね沢渡くん、祐輔はホントに大人気なくて。舞台に立つと変わるんだけどね」
「そうですよね、舞台上の兼古先輩に憧れます。明日は本当に楽しみです」
・・・それって、誉めてるのか?けなしてるのか?
「祐輔、明日はよろしくな」
帰り際、部長が声をかけてきたので、はい、と固い握手をする。大きな舞台に立つことは、緊張するけど楽しみでもある。スポットライトが当たり、多くの観客が俺だけを見てくれる・・・あの瞬間にはたまらないものがある。今年はメインキャストの一人になり、去年より格段に見せ場が多くなった。俺は、俺の役割をきっちりと果たすのみ。まずは地区予選を突破することだ。
昨日電話で話した美智のお願いも気になる。全国大会で優勝したら・・・それはかなり難しいことだけど、明日の予選をいい足がかりにしたい。
「じゃあ、明日頑張ってね」
美智が唇の端にキスしてくる。
「ああ。楽しみにしていろよ」