6/21 (日) 15:00 新版

俺たちよりも後ろを歩いていた1年生が、何人か巻き込まれたようだったが、幸い彼女たちは捻挫などの軽いケガで済んだ。どうやら、ロビーで興奮した他の高校の女の子たちが階段を踏み外し、雪崩のように襲い掛かってきた、と。

しかし少々不可解なのは、一番後ろを歩いていたはずの沢渡と朝霧は、平気だったということだ。・・・状況からして、沢渡目当てだった女の子たちもいたに違いない。なのに当の彼は、倒れて動けなくなった上柳さんを、素早く横抱きにして立ち上がっていた。

「何だか、後味が悪いですね」

予定されていた打ち上げは、そういう事情でキャンセルになり、各自家で休むことになった。地区予選2位という屈辱に加え、混乱に巻き込まれてケガ人が出るなんて、ショックでたまらない。

そして日が変わり、俺と美智は部長に呼ばれて都内のカフェに来ていた。明日まで待っていられないというのが部長らしい。

「実は、もう一本書いてあったんだ。読んでみてくれないか?」

憔悴しきった部長は、おもむろにカバンの中から分厚いコピーを取り出し手渡してくれた。・・・これは、別バージョン!・・・1年生部員、沢渡希。

「あれがダメなら、抜本的に変えなきゃいけないということだ。・・・沢渡の力を借りようと思う」

俺たちはそれぞれ、そのコピーを読み耽った。

沢渡の役は典型的な王子さまタイプで、天然ボケ。俺との絡みも結構ある。

「ただ心配なのは、祐輔の印象が薄くならないかということだ」

確かに、インパクトはありすぎるほどにある。これを沢渡が演じるところを想像しただけでも笑えてくる。

「部長、これでいきましょうよ。素直に面白いです。祐輔、あなたなら大丈夫よね」

「当たり前だろ。俺がアイツの陰に隠れたりするワケないじゃないか。それよりも、脚本が大きく変わったわけだから、出演者の動きをまた作り直さなきゃいけないのが大変だよ。もうあんまり日がない」

全国大会まであと1ヵ月半。しかも間にテストがあるので、しばらく部活が休みになってしまう。

「別に沢渡のことをわざと外していたわけじゃないんだ、俺は・・・」

「いいんです、部長。部長は沢渡くんの本質をよく見抜いていますよ」

俺も同感だ。警戒していたというのは、逆によく研究していたということだ。これを早く沢渡に伝えてやらないと。

・・・しかし、電話は留守電になっていた。何やってんだ、この大事なときに。でも仕方ないので、とりあえずメッセージを残しておいた。

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