ここが皇太子殿下のお部屋・・・。
エレベーターを出るとそこはそのまま内玄関になっていたので、本当に誰にも会わずに済んだ。そしてドアが開くと、ソファーセットが置かれた広いリビングが広がり、その一角にダイニングキッチン。それから書斎とベッドルーム。・・・一人で住むにはもったいなくらいの部屋。
「君との新居は、もう少し広いところになりそうだけどね」
ここから引っ越すというわけなの?・・・でも貴くんらしいところは、いろんなものがあちこちに溢れているということ。まず机の上には本が山積みになっているし、いたるところに、おそらく外国のものであろう置物が置かれている。実家にも何度か行ったことがあるけれど、広さ以外は雰囲気が変わらなかった。それが分かると、少し安心できたかな?
「どうぞ、自分の部屋だと思ってくつろいで」
私をソファーに座らせると、彼はワインとグラス、続いてチーズなどのおつまみを持ってきて、隣に腰掛けた。
「ようこそ、僕の部屋へ」
グラスを合わせて口をつけると、彼は結んでいた髪を解き、指で梳かした。
「不思議な感じだね、君がここにいるなんて。でも、それだけで落ち着くのが分かるよ」
それは私にも分かる。いつもより動きがゆっくりとしていて、身体をリラックスさせている。部屋にはアロマオイルの香りが漂い、テーブルにはお花が、部屋の片隅には観葉植物も置かれている。ふと眺める彼の横顔は、透けるような白い肌に艶やかな黒髪・・・でも充血した瞳。そしてその瞳がゆっくりと私をとらえた。
「ずっと見ていたいな・・・綺麗だよ・・・」
「でもダメ。私は元気な貴くんに見つめられたい・・・目を閉じて」
分かったよ、と拗ねた子どものように目を閉じる彼。しかし、さっと右腕で私を抱き寄せた。
「その代わり、キスして」
貴くんがリラックスできるなら、私は何でもする。・・・彼は今結構眠そうにしている。これはチャンスかも。
「嫌だ貴くん・・・ベッドに・・・」
「じゃあ、しばらく目を開けててもいい?」
またそんな冗談言って・・・。でもいいの。彼はベッドに着くなり、電池が切れたように眠りに落ちた。・・・疲れすぎているのよ、今夜はゆっくりお休み。