こんな時に弱みを握られたらたまらない。昨夜はおとなしくドクターの診察を受け、早々に寝かせてもらった。そのおかげか今日はなかなか調子がいい。相変わらず、睡眠障害の原因は心因性のものだろうというだけだが。
そう思うと、沢渡くんは大丈夫なのかと少々心配になる。楽天的志向の僕ですらこうなのに、神経質な彼が重職についたときにはどうなることやら、と。しかし、今回の働きぶりは、実に頼もしい。彼の仕事は速くて正確だ。ただ、今後の彼の仕事は、秘書としてではなく、政治家として周囲の人間とのコミュニケーションを大事にしながら、新しいアイディアを提案し相手を納得させることなのだから、やはり社交術をしっかり身につけてほしいと思う。
今夜は、ある長官との会食に沢渡くんを同行させた。長官は僕と年がそう変わらないので、手始めにはいいかと思って。
「沢渡さんは、いつから政官コースに入られたのですか?」
「正式には12歳からです」
「まだ3年しか経っていないのに・・・凄い出世ですね。殿下を凌ぐほどかもしれません」
「長官、またご冗談を。私は殿下の元で、これからじっくり学ばせていただく所存です」
「・・・何とも、優等生的な発言ですね」
まあ、それは確かに。
「ですが殿下、私が聞いているのは、よい印象ばかりではありません。まだまだ、課題は多いようですよ」
・・・本人がいるところでその話をするとは、長官らしい。
「長官は、沢渡くんのことをどう思われていますか?」
「私はですね・・・」
長官は僕の隣の沢渡くんを、じっくり品定めするように見た。
「沢渡さんに伺います。今日の議会はいかがでしたか?沢渡さんがもし殿下ならどうなさいますか?」
またそんな、きわどい質問を。・・・沢渡くん、どう答える?
「私が皇太子でしたら、・・・響貴久さんという方を、仕事のパートナーに選びます。そしてその方と、これから明日の作戦を練ります」
何だ?その答えは。面白いけど、少々・・・。