「お前は、他人のことなんて考えてないで、自分の身体を心配しろ」
そんなことを言いながらもやはり結城は嬉しかったらしく、涙ながらに僕のことを抱きしめて耳元で囁いてきた。・・・熱い抱擁は、沢渡くんとだけにしておいてよ。
その沢渡くんは試験が終わったので、部活に出かけて行った。王子さまだなんて楽しみだね。僕は何が何でも観に行くよ。
そして僕は執務室で、今週の成果を振り返るべく資料を見ていた。・・・すると陛下がいらした。
「響くんへの負担が大きすぎるのかな?身体のことが心配だ」
はい・・・、今日は静養するようにと言われていたのだけど、部屋でじっとしているのはどうも落ち着かず、一人でここに来てしまっている。部屋には仕事を持ち込まないのが、僕の流儀だ。
「ですが、メディカルチェックでも悪いところは見られませんでした。ただ、眠りが安定しないだけです」
「しかし、良質な睡眠をとらないことには身体によくない。今はまだ若いから影響が出ていないのかもしれないが、今後のことを考えると不安は募る。・・・君は優秀なのだから、つまらないことで失いたくはない」
そのお気持ちは嬉しいですが、いかがなさるおつもりですか?何か話があって来られたのでしょう?
「ドクターの意見は、まず規則正しい生活をすることだ。君は外交担当ゆえ、時差の関係で不規則な勤務に当たらなければならなくなっている。当面は、出張でも近隣の国にしておくか、もしくは我が国の時間で過ごしてもらうことになるだろう。そして、部下をもっと信頼することだ。任せられることは任せておきなさい。君は最終的な確認だけでいいはずだろう?」
はい、そうですが、いろいろと気になることがありまして・・・。
「君の部署のことだから私が勝手に口出しすることは今のところないが、自分で自分の首を締めるようなことはやめなさい。あまりにも状況が変わらない場合には、結城と権限を分けることも考えている」
そこまでなさらなくても・・・。
「少しでも不安のある人間は、重職には置いておけない。・・・君も分かっているはずだ」
はい、それは痛いほどに。先の殿下が病気で若くしてお亡くなりになったことを、今でも気にされているのだろう。結城と権限を分け合うことになったら・・・、今日の友が明日の敵になるかもしれない。