あの頃が懐かしい。僕たちの座席一帯は、さながら同窓会のようだった。僕たちはそこまで真剣に音楽をやっていたわけではなかったけれど、本当に楽しかったので、今でも昨日のことのように覚えている。あの時もしも、ギターの彼についていっていたら、今頃はどうなっていただろうか?
広い会場には、ファンの声援が洪水のように溢れていた。彼らが二度目のアンコールに立った時、僕はステージに上がらせてもらい、祐一に花束を渡した。
「凄く良かったよ。楽しませてくれてありがとう」
「それは光栄だね。こちらこそ、来てくれてありがとう」
有名になっても彼は変わらない。あの頃のように肩を抱き合うと、他のメンバーとも握手を交わした。
「ちょっと、そこにいてくれる?」
?・・・別にいいけど。ボーカルの隣に立っていると、彼がMCを始めた。
「俺が音楽活動を始めたのは高校の時で、楽器のメンバーは徐々に集まったのだけど、そのサウンドに合うボーカルがなかなか見つからなかった。でもある日、いい声の持ち主を見つけた・・・それがこちらの殿下だった。彼に出会わなければ、俺の音楽は人の耳に触れることがなかっただろうし、ましてや、音楽を生み出す喜びを知ることもなかったに違いない。・・・改めて、今の僕があるのは殿下のおかげです。ありがとう。そしてもちろん、当時のバンドのメンバーにも、ありがとう」
会場内から拍手が沸き起こった。・・・彼がそんな風に思っていてくれたなんて、僕のほうこそ感激だ。
するとマイクの前に立っていた彼が、僕とボーカルの元に来る。
「なあ響、ついでに歌ってくれないかな?なんか懐かしくなってきたから」
そんな。僕は素人だし、バンドのファンのみなさんに申し訳ないよ。
「俺も、殿下の生の歌声を聴いてみたいです。ぜひお願いします」
ボーカルにまで頼まれたら、断れない。
「じゃあ、ワンコーラスだけ」
・・・どうなるか分からないけど、気持ちよさそうだ。
「今夜は、史上最強のツインボーカルで、お届けするぜ~」
うわ~。ドラムのカウントが始まりギターのサウンドが聞こえてくると、興奮してきた。スポットライトを浴びるって、こんな気分なんだ・・・。