暑い!部活が終わって学校を出てから車に乗り込むまでの一瞬の間にも、汗が流れ落ちる。明らかに僕はアウトドア派ではないので、この季節は嫌いだ・・・というのは沢渡も同じようだけど。
「そうそう、朝言い忘れていたんだけど、殿下が芝居を観に行こうと誘ってくださったんだ。もちろん君も大丈夫だよね?」
それはもちろん、何があっても行かせていただきたいけど、
「僕も行っていいの?」
「もちろん朝霧のこともご指名で」
うわ、恐縮してしまう。
「僕もこの春から時々一緒に食事させていただいたりしているんだけど、殿下は外出なさるのも全然平気なご様子だよ。意外とね、僕たちが心配するよりも周りは気づかないものなんだ。自然にしていれば全然問題ない」
そんなものなのかなあ。
「でも君は、いずれ殿下の後を継ぐエリート政官、に対して、僕はただの楽士じゃないか。申し訳ないよ」
「・・・朝霧は、僕のことをそんな風に見ているのか?」
えっ?・・・突然沢渡の声から覇気が失われたので、驚いた。
「僕は君のことを親友だと思っていたのに・・・、違うのか?」
「でも王宮には・・・高官には分からないかもしれないけれど、見えないラインがあるんだよ。僕たちには近づくことさえ畏れ多いラインが」
何を言ってるの?と、彼はまるで分からないような顔をしていた。
「朝霧のおかげで、王宮にも学校にもなじむことができた。そのことに対しては、感謝してもし足りないと思っているんだよ。その気持ちをうまく伝えられていないのなら謝る」
違う、違う、そうじゃなくて。
「それとも、僕が学校でいつも付き合わせているのが悪いのかな?僕は単純に、朝霧といると気が楽だからそうしているのだけど・・・、僕のわがままだよね」
だから、違うんだ。そうじゃなくて!
「うまく言えないけど、君はあまりに凄いから、こんな僕でもいいのかなって思ってしまうんだよ」
「どうして?朝霧のほうが凄いじゃない!」
今度は僕のほうが分からなくなる番だ。
「生まれ持った音楽の才能には、何をしたって敵わない」
・・・頭がいいというのは、僕が何をしたって敵わないことだよ。
「もっと誇りを持っていいよ。迷惑をかけているのは僕のほうなんだから・・・、本当はコンクールに出たいんだろ?ヴァイオリンを演奏している時に、一番輝いていることはよく知っている。僕だって本当はもっと多くの人に聴いてもらいたいと思っているんだ。なのに、そうさせてあげられなくて、ゴメン」
・・・だから、そんなことを言われると、余計に恐縮してしまうんだって。でもそこまで僕のことを思ってくれているなんて、感激だ。沢渡の側近だってなんだって、務めてあげたくなる。
「じゃあ、僕のヴァイオリンを聴いてくれる?」
「僕のほうがお願いしたいくらいだよ。それこそ申し訳ない」
僕の親友はとてもお人好しで、いいヤツです・・・。