すぐ会えるようでなかなか会えない祖母は、僕が連絡すると訪問を心待ちにしていてくれた。
「いらっしゃい智史くん」
「ご無沙汰しております、おばあさま。お元気そうで何よりです」
ついでに僕は、折角演奏をするのだから友達を呼んでもいいよ、と言っておいた。そしたら30人ほどがリビングにいらしていて、僕を見るやいなや盛大な拍手を贈ってくださった。やっぱり観客がいらっしゃるととても嬉しい。演奏のしがいがある。
一方僕も、よく練習に付き合ってくださるピアノ伴奏者を伴ってきた。祖母の家には立派なピアノがあるし、ちょうどいいと思って。
そして僕は楽器を構える・・・。
演奏終了後、後で反応を報告しなければならないため、感想を直接聞かせていただくことにした。・・・おばあさまのお友達なら、さぞかし耳も肥えていらっしゃるだろうと思って。
「私は智史くんの演奏が好きよ」
「いかにも若い人の演奏という気がするわ。良くも悪くもね」
賛否両論あって勉強になる。僕の感じ方とは違う感じ方をする人もいるわけで・・・。でも普段は僕の音楽が好きな人に聴いてもらえればいいと思っているけれど、コンクールとなるとそうはいかない。その人に嫌われたら、賞をもらえないことになる。
「一つお願いがあるのだけど、智史くんが一番好きな曲を弾いてもらえないかしら」
その要望に、僕はドキリとした。・・・楽しくなさそうに見えたのかな?でも確かに、今日演奏させていただいたのは、難易度が高い曲ばかりだった・・・高得点をもらえるような。
僕はもう一度楽器を構える。今度はソロで。そして心を落ち着かせ曲の世界を思い描くと、それだけで笑みがこぼれてきた。よし。・・・
拍手は先ほどよりも大きく、そして、僕としての充実感もより大きなものになった。・・・この感覚だと思った。コンクールでいい賞を獲りたいという思いもあるけれど、僕は心の伝わる演奏をして共感してもらうほうが好きなのかもしれない。僕の中で、何かが変わり始めた気がする。
「智史くん、今日は泊まっていきなさいよ。積もる話もあるから」
・・・そうですか?だったら、お言葉に甘えて。
「さっき電話をかけたらね、かなみちゃんが明日ここに来るって」
え~?・・・まあ、随分会っていなかったから、たまにはいいかと思うけど。