沢渡という男、いったい何者なんだ？才能があり余るほどあって、人格的にも優れている。庶民でただのサラリーマンの息子のくせに、突然変異でもしたのか？それとも、養子だったりするのか？
彼は今では１年の人気者になっているらしい。確かにアイツはいいヤツだし、単に俺が認めたくないだけなのだというのはよく分かっているのだけど、面白くない。この夏休み、アイツは何をしているのか？もう、警戒しているというわけではない。アイツができるヤツで、素直に力を借りようと思うようになったのだ。でも、素性だけは確かめておきたい。これは単純に気になるからだ。
そして私立探偵を雇った。親父がよく頼む人を俺も知っている。
「率直に申し上げて、彼には謎が多すぎます。まず、三日間調査をしておりますが自宅には一度も帰っておりません。しかも出入りする家族はそれを気に留めていない様子です。おそらく、住居は他にあると思われます」
「本当に、沢渡家の息子なのですか？」
「はい、それは本当のようです。何よりも、母親が彼とそっくりな顔立ちをしております。そこで近所の家に聞いてみたところ、あの家に引っ越してきたのはここ２、３年で、しかも彼は時々しか目撃されていません。ただ、４月から６月ごろにはきちんと家に戻っていた様子で、いつも夜遅くまで電気がついていたそうです。そこで彼のことを母親に聞いてみたところ、『勉強をさせていますの』と答えたそうです。しかし、それ以上のことを知っている人はいませんでした」
でも、７月に入ってからも、アイツは学校に来ていた。どこから？･･･でも、今は部活が休みだから、追跡することは不可能だ。
「しかも、クリウスに入学する前は国費で留学していたとこのことですが、それは定かではありません。不思議なことに、どうにもこうにも調べられないのです。沢渡一家は地方都市の出身で、彼も地元の幼稚園を卒園しています。しかし、その後、クリウスに入学するまでは、空白だとしか申し上げられません」
ますます気になる･･･。何かあるに違いない。その時、探偵の携帯が鳴り会話が続いた。
「先ほど彼が帰ってきたそうで、部下は彼を送ってきた車を追跡したのですが、巻かれたそうです。単に見失ったというのではなく、明らかに、追跡に気づかれ、逃げられた、とか」
巻かれた？普通の車がどうしてそんなことをする必要がある？でも、アイツは家にいるとのこと。必ず出て行くわけだから、今後の調査に期待しよう。