殿下は実に精力的に仕事をこなされている。飛行機や到着されてからの車内では打ち合わせをされ、わずかに休憩をとられた後は、面会、会議、夕食会と息つく間もなく大活躍。その間に笑みを浮かべることも忘れず、ホーンスタッドの皇太子として、外交官として、立派にお務めを果たされた。我が国では議会中ということもあり、準備期間が短くて大変だったと伺っていたが、今日は見事としか申し上げようがなかった。
加えて殿下の側近の竹内さんも、細やかな気配りのもと、手際よく働いていらした。私も、沢渡さんが皇太子になられた時にはこのような働きが出来るだろうかと、不安になってしまう。
そんな時、竹内さんの計らいで、殿下のマッサージをさせていただくことになった。
「身体のことは加藤のほうが詳しいですから、ご安心ください」
「僭越ながら、お身体に触れさせていただきます」
「だめだめ、そんな弱気な態度では」
はい?ベッドにうつ伏せになられた殿下が、顔をお向けになる。
「僕たちを見てごらんよ。竹内のほうが強いのが分かる?」
またそのようなことをおっしゃって・・・、竹内さんを伺うと、苦笑されていた。
「特に、沢渡くんの側近を務めているのだから、徹底的に手なずけなければいけないよ。彼にはエネルギーがあり余るほどあるのだから」
確かに。私が申し上げなければいつまでも勉強なさったり、何やら深い物思いに耽っていらしたりする。沢渡さんはあまりご自分のことをお話しにならない。いつも世間話がほとんどで、大事なことは結城さんと相談されている。もちろん、結城さんは沢渡さんの親代わりのような方だからそのお気持ちも分からないのではないのだけど、いささか寂しいような気もする。
「はい。・・・失礼ながら、沢渡さんの働きぶりはいかがですか?」
「・・・・・・」
あれ、お返事は?・・・すでにお休みになってしまわれたご様子だ。これほど働かれれば、お疲れにもなるだろう。リンパの流れがあまりよろしくない。
「加藤くん上手だね、殿下にこんなに早くお休みいただけるなんて。ありがとう」
お忙しい方だから、健康管理は側近の大事な務めだ。