8/14 (金) 22:30 星空の思い出

殿下が晩餐会に出席されているので、沢渡さんはフリーとなった。今回は秘書として同行されている以上、華やかな宴に用はない。

さすがの沢渡さんも、根を詰めた仕事が続いているせいでお疲れのご様子だった。よって部屋でゆっくり休んでいただくことも考えたが、折角なので街に出られてはどうかとお誘いしてみた。・・・それにお土産は買わなくてもよろしいのですか?

私たちは名物料理をいただき、一緒に街をブラブラした。沢渡さんは私を側近としてではなく友達のように扱ってくださり、あれこれ話をしながら歩いていると・・・男から舐めるような視線をもらったとかで、気味悪がられていた。

「僕の外見ってそんなに特殊?」

「別に男性だから女性だからというのは関係なく、単純に美しいものは美しいと申し上げたくなります。その点で、沢渡さんは美しいです。均整の取れた身体に、クールな目元、美しい髪、しかも今では険が取れて穏やかな印象になられたので、こうして隣にいさせていただくことが出来て光栄に思っております」

「以前の僕はダメだった?」

「そうですね・・・今から思うと大人気なかったですね。かと言って子どもらしいというわけでもなく・・・、うまくやっていけるかと最初はかなり心配いたしました」

そうだったね、と沢渡さんは苦笑されながら、海岸へと私をお誘いになられた。月明かりの中、静かに波が寄せては返す海辺。私も、普段はこのように自然を感じることが少ないため、無意識のうちに大きく潮風を吸い込む。すると、突然沢渡さんに足を掬われ、一気に砂浜へと倒れこんでしまった。

「沢渡さん!」

「ほら、見てみて」

沢渡さんは私の苦情を受け付けず、自らも仰向けになっていらした。仕方がないので同じように空を見上げると、そこには満天の星が、今にも降ってきそうなほど輝いていた。

「小さい時、父に言われて家族みんなで星を見上げたことを今でも覚えているんだ。あれから随分時が流れてしまったけど、僕は何かをつかめたのかな?」

沢渡さんがご家族の話をされるなんて珍しい。それほど今は感傷的なご気分なのでしょうか・・・。

「沢渡さんは、まだ夢の途中ですから・・・」

「加藤は、その夢が実現するのを一緒に見てくれる?」

はい?

「沢渡さんさえよろしければ、お供させていただきたいと思います」

「本当に?」

「はい。私は沢渡さんの成長を楽しみにさせていただいております」

ふ~ん、と、沢渡さんは改めて星をご覧になり、しばらく感慨深そうにしていらした。

沢渡さんは、よく宮殿の展望台で星を見上げていらしたと、結城さんから伺っている。それはいつも、お父さまとのことを思い出していらしたということなのだろうか?お世辞にも家族の関係はよいとは申し上げられない、得るものがあれば失うものもある。しかし日は昇り、また沈み、新たな一日がやってくる。どこに向かって進まれるのか、それはもちろん沢渡さんの夢の到達点まで・・・。

ふと隣を窺うと、目の縁から銀色のしずくが伝い落ちているのが見えた・・・。

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