仕事はすべて終了ということで、打ち上げも兼ねて殿下が舞台を観に連れて行ってくださることになった。今日のはお芝居ではなくショーなのだそうだ。しかし、我々側近は警備を怠るわけにはいかない。
ともあれ、沢渡さんは存分に楽しまれたご様子だった。ホーンスタッドでは人目が気になるために遠慮がちだったが、ここは外国、堂々と殿下や結城さんと感想を交わしていらっしゃる。・・・明日には帰国することになっているが、そうなるとまた、追跡に怯える日々が始まってしまう。いや、情報部員の活躍により、スパイたちには一応満足して引き下がってもらえるようになったそうだ。しかし、だからと言って静かな日々が返ってくるとは言い切れない。次なる手段で出てくることも考えられる。
やがて、殿下と結城さんに続いて沢渡さんも席を立ちロビーに向かわれた。その横顔は実に楽しそうで、私も安心する。・・・いや、帰るまでは気を抜けない。私は後ろからついていく。
ロビーに行くと、大勢の人の中から、ホーンスタッドの言葉が聞こえてきた。これはますます気をつけないと、と思った矢先、
「あれ?沢渡くん?」
という言葉が聞こえて、ギクリとそちらを振り返った。・・・そこには、先日沢渡さんが要注意人物の一人に挙げられた、園田さんとそのご家族がいらした。
「こんばんは」
お気持ちは分かる。沢渡さんにはそれを言うだけで精一杯だった。・・・しかし幸い、殿下と結城さんの姿は、すでに見えなくなっている。
「沢渡くんは、どうしてここに?」
・・・そこで、私の腕をグイとつかまれた。
「知り合いの方に連れてきていただいたのです」
「こんばんは。加藤と申します。申し訳ありませんが、あまり時間がありませんので、これで」
「そうですか。・・・それじゃ、また」
私たちは一礼して、園田さん方を先にお通しした。・・・背中を見せるのはもうこりごりだった。しかし、このまま納得してくれるような人たちではないだろう。この後どうなるか、ますます不安が募る。