8/26 (水) 23:00 ストレス

沢渡くんは、部長からサファイアのピアスのことを聞かれたとき、“大事な人からの頂き物です”と答えたそうだ。ただそれだけ。王宮がどうだとかは関係ない。そしてその毅然とした態度が、部長を引き下がらせてしまったとのこと。そうそう、その調子。何も聞かせないというオーラが必要なのだ。

「沢渡くんは、一人でいるのと誰かといるのではどちらが楽かな?」

食事をしている間、彼に聞いてみた。

「どちらかというと、一人でいるほうが楽です。でも誰かから話しかけられるのは好きになりました。今までは、誰も僕のことなど気にしてくれませんでしたから」

「でも、話しかけられるのを待つだけ?」

「用事がないときは特に・・・」

ふ~ん。それはどうなのかな?

「一人でいたいのに、話しかけられたいの?」

「別に、話しかけられたいわけではありません。話しかけられても悪くない、と思うだけで」

「大切なのは、心の内をすべて話せる人を持つことだよ。・・・もちろん、結城はその一人になるだろうけど、結城だって忙しいからね。いつでも当てにできるというわけにはいかないだろう。もちろん、僕にだって話せることは話してくれていい。できるだけ協力するから」

あの・・・と、沢渡くんが控えめに言い出す。

「僕はそんなに危うそうですか?」

そうだね・・・。そうでなかったら、こんな話はしないよ。

「いろんなタイプの人がいるから一概には言えないと思うんだけど、君は自己表現があまりうまく出来ていないような気がする。例えば僕の場合、たまには一人になりたいと思うけれど、基本的にはいろいろな人に会っているほうが好きなんだ。僕のような立場になってくると、相手によって話していいことと話してはいけないことが出てくるから、そのストレスをためないために、分野の違う人にそれぞれのネタを話して溜め込まないようにする。もちろん、誰にも話せないこともあるよ。でも君を見ていると、あまりに溜め込みすぎている気がするから・・・」

「そうですか・・・。殿下にはお見通しなのですね」

「でも、さっきのは僕の場合であって、ストレスの発散法は他にもあると思う。その辺りは自分でよく考えるようにね。もし僕でよければ、いつでも相談にのるよ」

後進を育てるのも、僕の大事な仕事だ。

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