でも、園田先輩相手にいろいろ試してみることはまだ無理。そんな関係になりたいけど・・・、まずは、もっと先輩のことをよく知らないと。
「先輩はどうして長距離をやっているんですか?」
大体私は、先輩が走っているところさえもまともに見たことがない。
「正直に言うと、トラックを走るのはあまり好きじゃないんだ。この間のような自然の中だったら、どこまでも走れそうな気がする。第一気持ちがいい。その時は、他の誰でもない自分になれるんだ」
・・・私なんかは、長距離を走るというだけで疲れちゃいそうな気がするけど。
「そういうきっかけだったんだけど、体育の時にいつもの調子で走ったら、誰よりも速くてね。他人の前を走るのもそれはまた気持ちよかったから、今に至るという感じかな?ただし、苦しい思いをしてまで他人に勝ちたくはないから、気持ちよくなくなれば競技はやめようと思っている」
そこまで思い入れてやっているんだ・・・。でも気持ちは分かる。私の演劇に対する思いも同じようなものだから。
「じゃあ、写真はどうしてですか?」
何だか質問攻めだね・・・と、先輩は笑い始めた。
「僕が一つ答えたんだから、今度は君が答えてよ。まゆは、どうして演劇をやっているの?」
・・・この間から、先輩は私のことをまゆと呼ぶようになった。それは嬉しい・・・けど、
「分かりません。とにかく好きなんです」
何それ?と、先輩はますます笑った。
「うまく説明できないんですけど、他の誰かになりきるという感覚も、大勢で一つのものを作り上げるという感覚も、舞台でスポットライトを浴びる感覚も、・・・とにかく全部好きなんです。理屈じゃありません」
「確かに、そういうものかもしれないね。僕にとっては走ることが気持ちいいというのが君に伝わらないように、その逆があっても全然おかしくない。・・・いつも演劇のことを考えてるの?」
「はい、いつも考えています。他人のふとした仕草を見ては、これ使える、と思ったり・・・」
「じゃあ、僕とのこともネタにされたりするわけ?」
「直接使ったりはしませんが、参考にはさせていただきます」
「頼むから、僕と他の誰かを置き換えて考えたりしないでよ」
・・・あ、あっさりと言われてしまった。でも、考えるとしたら反対かも。舞台の上で相手のことを園田先輩だと思うとか・・・。