部活のとき、女の子を誘うシーンの練習をしていたら、勢いあまって、実際に唇が触れてしまった。
「ゴメン、やりすぎた」
ステージ上でそんなことをしてしまったら、観客の神経がそこにばかり注がれてしまって、芝居どころではなくなる。・・・コンクールでならいいのだが、クリウスの学生相手の場合はそうはいかない。
「でも、本気の演技ゆえに起こってしまったことならしょうがないわよね」
・・・のわりには、怒ってないか?美智。
「なあ、練習に付き合って。・・・女の子はどんな風に愛されたいんだ?」
こんな貴重な場をみすみす逃すわけにはいかない。
「嫌よ。他の女の子のことを想定しながら私のことを見たりしないで」
「違う、逆だ。俺は俺、そして美智が自分の中のいろいろな面を出してくれればいい。例えば、大人な部分とか・・・、弱気な部分とか・・・、本能的な部分とか・・・」
そっと顔を背けた彼女に触れると、体温がふわっと上がったのが感じられた。・・・かわいい。
「いや、だ。そんなの・・・恥ずかしい」
人にいつも演技させといて、自分だけそんなことを言うなよ。
「じゃあ、しばらくはそうやって恥ずかしがってて・・・」
「何を言い出すのよ、祐・・・」
続きは言わせない・・・。大胆に唇を奪って、そのままソファーに押し倒し、体重をかけるようにのしかかる。
「いやっ・・・」
空いている右腕が、バタバタと宙を舞う。
「もっと俺のことを拒んで・・・」
すると、もう声にならないのか、顔を背けたまま、耐えるような表情で眉間に力を込めた。
・・・普段は勝気な彼女が見せる表情が、とてもかわいらしい。ここまで来ると、演技なのか本気なのかよく分からない。でもとにかく、そそられるのは確かだ・・・。
「愛してる・・・」
言うと今度は急に目を開け、俺を睨んできた。・・・ますます、かわいい。