学食で席に着いたら、
「沙紀ちゃんから、朝霧くんって彼女いるの?って聞かれたよ」
いきなり沢渡が言うから、フォークを取ろうとした手を膝の上に戻す羽目になった。
「何て答えたの?」
「え?素直に、いないみたいだよ、って答えた」
・・・沢渡のプライバシーを必死に守った僕は馬鹿みたいだ。
「でもあとは、朝霧がしたいようにしろよ。僕には別に関係ないし」
あ・・・、絶対楽しんでる。悔しいな、彼女がいることで余裕を見せつけるなんて・・・。
でも僕だって考えているんだ。沙紀ちゃんのことを好きみたいだと思う。もし、僕のことを好きだと言ってくれるなら、それに応えたいという気持ちがある。でもそれはいつなのか・・・。
「沢渡は、告白されたときどうだった?」
「どうだった?って・・・その時の状況を聞きたいわけ?」
・・・そんなの聞いてどうする。
「違うよ、君の気持ちだよ」
確か、特に好きではなかった、と聞いた気がしたから・・・。と思ったら、ふざけていた沢渡の顔が急に真面目になった。
「嬉しかったよ。僕のことを好きになってくれる人がいるなんて、信じられない気持ちだった」
「・・・でも、それから何度も告白されたんだろ?」
「考えてもみろよ。よく知りもしない相手から告白されたって、何て答えたらいいか分からないだろ?」
・・・確かにそうかも。よほど気になる存在でなければ、言われたところで困ってしまうだけだ。
「なあ、食べないの?」
え?・・・あ、ああ。そうだよね、貴重な昼食の時間を無駄に過ごすわけにはいかない。
「僕は合宿のときが危ないと思うな」
と、また、フォークの手が止まるようなことを言う。でも、僕もちょっと意識していたことは事実。
「そうかな?・・・でも本番の前よりは後のほうがいいんじゃないの?」
努めて冷静なフリをして返す。
「どっちにしろ一緒だよ。僕は親友の幸せそうな顔を見たいだけなんだ」
・・・その顔は、何か根回しとかしそうだね。でも、沢渡の手を借りなくても大丈夫ということを証明したい。