昼間の練習は、衣装を着けて、本番さながらに行われた。沢渡は部長にスーツを買わされたと言っていたが、KZだから仕事でも着れそうだ、なんて喜んでいた。・・・実は、店員さんが知り合いだったらしく、知らないフリをしてもらえるかどうか内心緊張していたとのこと。しかし今日に限っては特に問題もなく進んだのではないかと思う。
夜。例のごとく沢渡と一緒に部屋にいると、兼古先輩がやってきた。・・・ので、沢渡はパソコンを、そして僕はサイレントヴァイオリンを片付ける。
「いいね、沢渡。色っぽいな」
シャワーを浴びてバスローブを羽織っていた彼は確かに色っぽい。はさておき、
「部長のことなんだけど・・・」
と兼古先輩はついさっきも部長と揉めてきたという話を、沢渡に聞かせていた。いつもは兼古先輩のほうが相談される側になると思うんだけど、どうも形的に沢渡のほうが意見しているように見える。・・・それを僕は遠巻きに見ている。
「先輩、僕のことをそんなにかばってくれなくても大丈夫です。僕のせいで先輩にまで不愉快な思いをさせているなんて、心苦しくてしょうがありません」
「いや別に、俺のことはいいんだよ。強いて言うなら、部長の行動が目に余るから勝手に割って入っているだけだし」
沢渡はふと、いったん視線をそらした。
「・・・先輩の心意気に改めて気づかされました。正直僕は、部長はもうすぐ引退するんだから、少し我慢をすればいいだけだと思っていました。でも、演劇部にとっては大事な舞台の一つです。きちんと解決して舞台に臨まないと、みなさんにも失礼ですよね」
「沢渡?」
彼は一転して、きりりと引き締まった表情に変わっていた。そして時計に目をやると、
「今から部長と話してきます。ただ、すみませんが、先輩は遠慮していただいてもいいですか?」
沢渡、何を話すんだ?・・・もしかして、全部話すつもりなのでは。
「でも・・・」
「僕が原因なんですよね、だったら僕が解決するしかありませんよね?・・・もちろん先輩には後でお話ししますから」
先輩はその勢いに押されるように頷き、沢渡は着替えるために隣の部屋へと入っていった。