今日の公演終了後に、ミスキャスト上演会の公開抽選会が行われた。そこで僕が当たった役とは・・・木。ひたすら立ってるだけみたいだ・・・腕がだるくなりそうだな。でもそれより大変な役を引き当てた人がいる。
「沢渡。コーヒーを二つ」
ここは我がクラスの模擬店。そこへ、見るからに不機嫌そうな兼古先輩と清水先輩が入ってきた。
「フルーツパフェも一つもらえる?」
「かしこまりました」
・・・本当に清水先輩は笑いが止まらないといった様子。そう、何と兼古先輩が見事に妖精役を引き当てたのだった。・・・いや、僕はあまり笑えない。
それにゆっくりはしていられない。部の公演の後は、クラスでウェイターを務めている。昨日部長がご丁寧に「スーパー王子仕様にしてきてくれる?できれば、プラチナブロンドなんて見てみたいな~」などとおっしゃるものだから、しょうがない、仲野さんと相談して・・・さすがに脱色することはできないので、ナチュラルなウィッグを用意してもらった。他にも、カラーコンタクトを入れてみたり、ネイルアートをしてみたり、ブルーのアクセサリーを増やしてみたり。
「ねえ沢渡くん、一緒に写真を撮ってもらってもいい?」
はい・・・。ここまで来たら開き直ってやる、と思って、そのままの出で立ちで今に至る。文化祭では学外の人も入って来れるので、それはもう大忙しなわけで。
「お待たせいたしました」
それでも笑顔で、先輩方の元へ注文の品を届ける。
「それにしてもお前、外国人みたいだな。外国語で接客して来いよ」
はぁ?また変なことを・・・。どうなっても知りませんよ。
「May I help you?」
学外の女の子二人が、ドギマギしながら顔を見合わせている。
「I…I…want…tea」
・・・何も外国語で答えなくても。でも面白いからそのまま応対して、調理場には思いっきり普通に「ホットミルクティーを二つ」なんてオーダーする。そうだよ、文化祭なんだから楽しまないと。
兼古先輩はすっかり笑顔になって出て行った。