そして、我が模擬店には、本日も豪華なお客様がいらした。凄いなぁ~、と辺りがどよめいているが、遠巻きに見守っていることしかできないみたいだ。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「そうだね・・・、コーヒーとアイスクリームを二つずつお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
・・・努めて失礼のないように申し上げるが、実は笑いが止まらない。それは殿下も同じようで、目が笑っていらっしゃる。一方、その向かいに座っている結城は、面白がっているというよりは呆れているみたいだ。そう、殿下は母校の文化祭にいらして僕たちの公演をご覧になり、その後校内をお散歩されている。もしやいらっしゃるかも?と思っていたら、案の定だ。
「ねえ、何かサービスしなくてもいいの?」
「殿下って素敵」
オーダーを伝えに戻るなりクラスメートに取り囲まれてしまったけれど、殿下のほかにもお客さんはいらっしゃるんですよ!ということで、みんなを仕事に戻す。そんな中、殿下に見惚れて固まっている子が一人・・・。沙紀ちゃんだ。
「殿下にお出しする?」
えっ、そんな、と、彼女は首をブルンブルンと振って見せたが、殿下だって、僕の様子だけではなく、いつも話題になるクラスメートや部員のことをお知りになりたいに違いない。僕としても、沙紀ちゃんに持っていってもらえると、あとで、「朝霧の彼女なんですよ」と説明しやすい。
「え?いいの?」
「もちろん。先に殿下にお出しするように気をつけて」
うん、分かった、と、沙紀ちゃんは緊張しながら持っていこうとするから、笑顔で、と付け加えた。すると殿下はあれこれ話しかけていらっしゃる模様。
「ねえ、殿下が私のことを覚えていてくださったわ。演劇部でさっき舞台に立っていましたよね、って」
さすが殿下、目聡いです。おそらく、この後部長のことも校内に探しに行かれそうな予感が・・・。一方結城も、さっきから不自然ではないくらいにだけど周囲を気にしている。そっちは笑っていないから不気味だ。なんてよそ見しないで、僕は、仕事、仕事。教室の外は野次馬と仕官のせめぎあいになっていて、危険な感じがする。でも殿下はあくまでもマイペース。結城と楽しそうに話をされているその横顔を拝見すると、休暇のおかげで元気になられたようだ。
「ごちそうさまでした」
「ありがとうございました」
夜、宮殿に帰ったら、捕まりそうだ・・・。