今日はかねてから頼まれていた朝霧との約束を果たしに、彼の実家に伺うことになった。
「ゴメン、かなみはミーハーだから、やかましいかもしれない。先に断っておくよ」
かなみちゃんというのは朝霧のかわいい妹。確か以前一度会ったことがあるのだけど、随分昔のことだったから、僕も少し楽しみにしている。・・・朝霧は僕が家族とうまくいっていないのを知ったせいなのか、自分の家族の話をあまりしない。でもかなみちゃんには弱いらしく、いつも困った様子を見せるので面白い。そしてもちろん、朝霧のご両親にお会いするのも久し振りだ。
「ご無沙汰しております、沢渡です」
「ようこそお越しくださいました。智史がいつもお世話になっております」
改めて思ったことだけど、朝霧はどちらかと言うとお父様に似ていらっしゃる。ただ雰囲気は彼のほうがかなり柔らかい。・・・あれ当のかなみちゃんは?
「ゴメンね、アイツが会いたいって言ったくせに。・・・待ってて」
・・・朝霧でも、アイツ、なんて言ったりするんだ。
そして現れたかなみちゃんは、ずっと綺麗になって、オフホワイトの服を清楚に着こなしている。
「こんにちは沢渡さん。今日はわざわざすみません」
やかましいなんて失礼じゃないか?と思うほど、上品に見える。
「猫かぶりでゴメンね」
彼は困った様子で、僕に囁きかける。
「ねえ、お兄ちゃん。沢渡さんとお散歩に行ってもいい?」
「何を言い出すんだ、急に」
「いいね、一緒に行こうか」
あまりにも朝霧が困っているのがおかしかったので、そのお誘いに乗ることにした。
かなみちゃんは、一応あれこれ音楽をやってみたけれど趣味の範囲を出ないということで、今は平凡な中学生をしているという。
「でも、私の学校は女子校なんですよ。だからつまらなくて・・・。沢渡さんみたいな人がいたら、毎日が面白いのに。・・・沢渡さんって、彼女いるんですか?」
女の子ってどうしてすぐにそれを聞く?
「うん。僕にはもったいないくらいの人がね」
「え~、沢渡さんがもったいないなんて言う人に、私が敵うわけない・・・。でも、彼女がいないなんていうほうが、怪しいですよね」
怪しい・・・って物騒な。
朝霧の実家の近くには公園や川があって、散歩するにはもってこいの場所だと思った。話は雑談という感じで堅苦しいものではなかったし、かなみちゃんもまたかわいいので、こういうのは歓迎かも。そう考えると逆に、有紗さんと一緒にデートするなんてことは出来ないので、寂しい気もしたけど。
「ありがとうございました。ほら、女子校にいると緊張感がなくなってしまうんですよ。でも今日沢渡さんと歩けて、とても楽しかったです。通りすがりの人がみんな沢渡さんのことを振り返るのも面白かったですし」
母と同じことを言うね・・・。
「じゃあ、時々こうして散歩しようか。朝霧は放っておいて」
このくらいなら許されるだろう。