最近、有紗さんが演技にハマっているから困る。
「もし、希が上司で私が部下だったらどうする?」
「もし、希は私のことが凄く好きなのに、私は希のことが凄く嫌いだったらどうする?」
「もし、私の目が見えなかったらどうする?」
・・・でも、それにイチイチ真剣になって演じる僕もまた、困る。
それはさておき、部長と兼古先輩は上柳さんが部活に戻ってくると信じているようで、今のところ脚本の変更はない。僕も、園田先輩のことはだんだん怪しいと感じるようになっていた。でも所詮僕には関係のないことだから、口出しするわけにはいかなかった。・・・今となっては、別れてくれてよかったと思っている。でもそうすると上柳さんはどうなってしまうのか、と心配事は尽きない。
「また考えごと?」
僕が机に向かっていると、シャワーを浴び終えた有紗さんがバスルームから出てきて、後ろから僕に抱きついてきた。ぬくもりを感じる反面、滴が落ちてきて冷たい。
「有紗さんの高校生活はどんな感じでしたか?」
有紗さんは、陛下と同じイストの出身である。
「さほど面白いものではなかったわ。みんなが私のことを国王の娘として見ているから下手なことは出来ないし、みんなのほうも当たらず触らずという感じだった。それにイストでは生存競争が激しくて、日々勉強に追われていたわ。・・・のんびりしているクリウスが羨ましい」
悩む暇があるというのは贅沢だと?
「高校の時に彼氏はいましたか?」
「そんな命知らずが学校にいるわけないでしょ?・・・でも、外国に短期留学させてもらったときにはいたかしら?・・・束の間だったけどね」
そうですか・・・。
「その人のことを愛していましたか?」
・・・変なこと聞くのね、と笑いながら、有紗さんは椅子の肘掛けに腰掛ける。
「束の間の恋になることは初めから分かっていたから、お互い密度の濃い時間を過ごしたわ。・・・でも激しいばかりの恋も疲れる。今は、ゆっくり愛を深めたいの」
僕たちも、初めから時々しか会えないことは分かっていた。しかし気がつくとはや半年が過ぎている。その間に彼女の何を知ることが出来たのだろう?僕にはまだ愛というものがよく分からない。