試験が無事終わったところで、緊張の時間が近づいてきた。・・・さて、今夜のリハーサル見学会に上柳さんは来るのか?・・・僕は彼女のそばにいてあげたいと思った。そしてそのためには、朝霧と沙紀ちゃん、村野さんの5人で一緒にいてあげることが重要だと思った。・・・二人きりはよくない。
夜、劇場の前に行くと、すでに上柳さんは沙紀ちゃんと一緒にいた。・・・よかった。
「お帰り」
僕が言うと、ただいま、と明るく言ってくれた。
貴重なリハーサルを見学させていただいたあとは、みんなで食事に行くことになった。その時僕たち1年生はまとまっていることになったのだけど、沙紀ちゃんが僕の隣に座り妙に話しかけてくるから困った。
「沙紀ちゃん・・・、朝霧じゃダメなの?」
僕はこっそり囁いた。いつもテンションが高い彼女だけど、今日のは異常とも言える。
「沢渡くんとならこうして何でも話せるのに、朝霧くんとはうまく話せないのはどうしてかな?」
・・・そういうこと言うと、・・・ほら、向かい側に座った上柳さんが僕たちのことを気にしているじゃないか。
「それは、僕のことは意識していないからじゃないのかな?」
「そんなことないよ、沢渡くんのことを意識しない人なんて誰もいない。でもほら、沢渡くんに恋愛感情を見せると急に態度を変えられてしまうから、友達のままでいるほうがいいと思うようになったのよ」
・・・僕ってそんなに露骨?・・・いや、確かに露骨かも。
「そう考えると、朝霧くんとも友達のままのほうがいいのかもしれない。・・・うん、きっとそうなのよ」
確かに、普段おしゃべりな沙紀ちゃんがしゃべらなくなるなんて、それは恋ゆえなのか、それともそれほどまでに退屈なのか・・・。
「ねえ、朝霧くん」
言ったそばから朝霧を連れ出したので、僕は驚いた。
「沙紀ちゃん、どうしたの・・・?」
村野さんが聞いてきたので、いや・・・と口を濁していると、その間に話は終わったらしく、早々と二人が戻ってきた。
「私たち、これからはいい友達でいることにするわ」
・・・女の子は怖い。