でも大体、彼氏って何?
部活が再開し、僕は上柳さん演じる女の子の彼氏役を務めることになったのだけど、瞬く間に兼古先輩に呼ばれてしまった。
「もう少し、彼女に気遣いを見せたらどうだ?彼女のためなら何でもする、くらいの心意気を見せてほしいな」
「今のでは、うまく出せていませんか?」
「そうだな。確かにお前の役としては彼女第一なんだけど、どうも今の演技では彼女のご機嫌取りをしているようにしか見えない。もっとドンと構えて、リードするくらいの雰囲気を持って実際に行動してほしい」
・・・その辺りが、沙紀ちゃんとうまく行かなかった原因なのかな?
でも今の段階では、上柳さんにどうしてほしいか聞くよりも、沢渡から彼氏としての振る舞いを学ぶことのほうが先なのではないか?・・・うまく行かなかったとはいえ、上柳さんは園田先輩と付き合っていたのだから、おのずと比べられそうで怖い。
「じゃあ例えば、僕が朝霧の彼氏だったらどうするか、やってみてあげようか?」
またそんな不気味なことを・・・。でもそんなことを言ってはいられない。実際に見てみるのが一番だと思ったのだ。でもそこで気づいたのは、意外と僕は普通に沢渡にリードしてもらっているということだった。例えば、僕が先に座るまで自分は座らないとか、重そうな荷物やドアは持ってくれるとか、ヴァイオリニストだから手を大事にという考えのもと、何もかも僕を優先してくれていたのだ。
「じゃあ、今度は代わりにやって見せて」
こんな巨大な男をかわいい彼女だと思って・・・というのは難しいものがあるけれど、やってみるしかない。
「う~ん、気迫で負けてる」
・・・そんなこと言わないでよ。
「僕から見ると、朝霧は抱かれたくなる男ではなく、抱きしめたくなるような男なんだよね。別にそれは、悪い意味じゃなくて、いい意味でだよ」
・・・笑えないよ、それ。
「でもそれは僕からの話だから、上柳さんよりは懐が大きくて包容力があるところを見せれば、それで十分だと思う。まずは気持ちを大事にして。僕が幸せにしてやるんだって思って」
・・・何だかそのアドバイス、もっと前に聞きたかったような気がする。