そして僕は思い切って、上柳さんと役について話してみることにした。
「朝霧くんは、ドンと構えていてくれればいいと思うの。友達より彼氏を選んでしまうくらいなのだから、私が熱烈に朝霧くんのことが好きで甘えるという感じがいいんじゃないかな?」
そうだよね・・・。僕が演じる役の男はあまり自分の意志で動くタイプではない。・・・それがドンと構えていて、ということになるのだろうけど、兼古先輩や沢渡に言わせると、女の子が飛び込んでいきたくなるような雰囲気ではないということになるのだろう。今回の作品は、とりあえず来週、ビデオで撮影をするという・・・あまり時間がない。
「今の僕じゃ、物足りない?」
「・・・物足りなくはないけど、ちょっとどっちつかずのところはあるかな?頼りがいがあれば、ついていく!って感じで演じようと思うけどそこまではいかない、逆にのほほんとしているタイプなら、私が振り回しちゃう!くらいに一方的に好きって感じでもいいと思うんだけど、だったらもう少しコミカルな演技にしないとね」
・・・最近おとなしめの上柳さんだけど、役のことになると凄く積極的だ。僕もうかうかしていられない。
でも、コミカルな演技というのは、あんまり自信がない。
「友達みたいな彼氏っていうのはダメかな?」
言ってみると、上柳さんは目をぱちくりさせた。
「お互いに歩み寄るような関係。どちらかがリードしたり譲歩したりするんじゃなくて、気がつくと一緒にいる、みたいな」
「うわ~、それって新鮮」
ホント?・・・喜んでくれているみたい。
「今までない役になりそう。ねえ、後で時間ある?打ち合わせしようよ」
苦し紛れの言葉だったけど、名案だったのなら光栄だ。
僕たちは部活が終わってから一緒に夕食を取ることになった。・・・もれなくそこへ、沢渡と沙紀ちゃんもやってくる。僕たちが役の方向性を固めれば、お互いの友達役である二人にも影響が出てくるから当然だ。
「なるほどね・・・、そういう考え方もあるのね」
沙紀ちゃんの一言に僕はドキリとした。・・・言葉にトゲがあったからだ。
「ゴメンね、僕の演技力が足りないせいで、こんなことになって・・・」
「朝霧くんが謝ることなんてないわ。私は純粋にそのアイディアが面白いと思っただけ。それにあくまでも、役についての話だしね」
分かってるけど・・・、と言った沙紀ちゃんは、まだ面白くなさそうだった。