どうも、沢渡がいないと調子が狂ってしまう。いつも沢渡と一緒にいたから、その彼がいないとなると休み時間に何をしていいのか分からない。でもだからと言って、わざわざ他のグループに入って話をしようとは思わないし、となると、寝たふりかな?・・・なんてのもまた寂しい。
もちろんしたいことはある。譜面を見たり、音楽を聴いたり、・・・ヴァイオリンを弾いたり。でもそれは叶わない。仕方ないことだ。どうせそういうことは一人で集中してやることで、周りから邪魔されると余計にストレスがたまる。・・・となると何だろう?・・・読書とか?そんな柄じゃないかも。
夜、気になってコンピュータに沢渡の所在を確かめると、自室にいるとのこと。ノートを持って行ってあげなきゃ。でも行っても邪魔じゃないかな?と電話してみると、別にいい、とのこと。
彼はワイシャツを腕まくりして、パソコンとにらめっこしていた。
「着替えたらどう?」
「・・・もう少しだから、仕上げてしまいたいんだ」
もう少し・・・って。見るからに、置かれているハーブティーは冷たそうだ。でも僕が言ってもやめないに決まってる。だったらせめて、ここはさっさと退散して集中できるようにしてあげよう。
「これ、今日のノートのコピーだよ。ここに置いておくね」
そして去っていこうとすると・・・、
「朝霧って字が綺麗だよな」
何て急に言うから、足を止めざるを得なくなる。
「でも君の字も綺麗じゃないか」
いつも宿題を見せてもらうときに思う。迷いがなく、大胆に伸びた字・・・。
「僕のとは種類が違う。朝霧の字は何て言うか・・・優美な感じがする。繊細で、美しい。・・・でも、時々間違ってるぞ。昨日までの分で直したところをそこにリストアップしておいたから、見ておいたほうがいい」
・・・いつの間にそんなことをやっているんだ。
「いいか、僕は闇雲に勉強していい点をとっているわけじゃない。授業の進め方を参考にして、狙いを絞っているんだよ。だから朝霧、ノートはちゃんと取っておいてくれよ。分からないところがあるなら、録音して来てくれてもいいから・・・」
え~、そんな。・・・これで休み時間の仕事ができてしまった気がする。ミスがないようにノートをまとめること、だね。