11/20 (金) 22:40 音楽の力

僕まで殿下からお土産をいただいてしまった。・・・Tシャツ?どう見ても僕にはあまり似合いそうにないけど・・・、夏には着させていただこうかな?

沢渡の休みも今週までで、来週からは学校に来ることになっているのだけど、さすがに二週間も経つと、一人で時間を過ごすことにも慣れてきた。

僕はこの機会に作曲家の人生について掘り下げてみようと思い、時代背景を調べたり、伝記を読んでみたりした。その作曲家がどんな状況でその曲を書いたのか、それまでにも大体は知っていたけれど、さらに理解を深めることで、より気持ちを込めることができると思ったからだ。

その気持ちが固まってからは、周りの雑音も耳に入らなくなった。僕はヴァイオリニストになりたいんだ。それしかない。

宮殿に帰ってからレッスンを受け、その後も部屋で練習を続ける。この頃少しいい音が出るようになってきたと思う。今の僕は、作曲家の想いを代弁することに徹している。人間が亡くなっても優れた芸術作品は残るから、そのよさをもっと伝えられたら、と思う。

沢渡はいよいよ仕事の大詰めを迎えて、頑張りながらもかなり参ってきているみたいだ。一応毎日、様子見も兼ねてノートを届けに行っているのだけど、このところは、寝ていたり、加藤さんからマッサージを受けていたりする。・・・今日はヴァイオリンを持って行こう。

コンピュータに尋ねると、まだ会議室にいるとのこと。・・・今日はやめたほうがいいかな?でも、みなさんもきっとお疲れだと思うから、よければ弾いて差し上げたいと思う。僕は勇気を出して殿下に申し上げることにした。

「お邪魔でなければ、演奏させていただいてもよろしいでしょうか?」

“ぜひお願いしたいね。待っているよ”

・・・会議室には惨劇が起こっていた。よどんだ空気、机に伏せている高官の方々、色を失くした顔。こういうときこそ、音楽が少しでも助けになれば、と思う。

僕は全神経を演奏に集中させた。もちろん癒されていただきたいと思うけれど、それは結果論。いい演奏をすれば、心に届くと思う。

音楽の力を信じて・・・。

「ありがとう。また音色が変わったね。凄く良かったよ」

殿下がそうおっしゃってくださり、僕は改めてお辞儀をする。・・・よく見ると、テレビで見るような政府高官がズラリ・・・、恐ろしい。でもいい演奏が出来たので満足だった。

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