今月のビデオドラマは、陪審員のお話。今回はコメディータッチになっていて、僕のキャラもまた、あまり考えないで調子のいいことばかりを言う軽い男だ。・・・こういうのは間が難しい。しかも僕だけ二週間のブランクがあるので、ついていくのに必死だ。
案の定、また兼古先輩に呼ばれてしまった。
「沢渡、ちょっとの間に笑顔を忘れたのかよ。表情がぎこちない」
・・・外に出たのは、上柳さんと会った一回だけ。それ以外はずっと、数字のことや、閣僚のみなさんのご機嫌をとることばかりを考えていたから、それも仕方のないことかもしれない。
「すみません」
「別に焦らなくてもいいから、伸び伸びと演技をすることを心がけてくれないか?ちょうどいいストレス発散になると思うぞ」
・・・僕って、そんなに溜め込んでそうに見えますか?ヤバイなぁ、こういうときこそ、僕は役者にならなければならないのに、と思う。殿下はどんなに仕事が忙しくても、いつも冗談をおっしゃる。それだけの余裕が僕にはまだないということだろう。
気合いを入れて・・・、僕はワイシャツを脱いだ。すると途端に朝霧が寄ってきた。
「そのTシャツ・・・いただいたものでしょ」
小声で囁いてくる。ということは、
「朝霧もいただいたのか?」
「うん、文字と色は違うけど」
・・・また殿下も。Tシャツ自体は何の変哲もなくて、僕のは紺地に白い文字が書かれているのだけど・・・となると、朝霧のも見せてもらわなければならない。全部で何か意味を持つのかもしれないから。
まったく、殿下には脱帽してしまう。先日も、お土産の種類は何がいいか、とそれだけのために電話してくださったし、このTシャツも人に合わせて言葉と色を選ばれたに違いない、となると、結城も持っているのかな?・・・殿下がお茶目にあれこれ考えていらっしゃる様子を思い浮かべたら、自然と笑いがこみあげてきた。笑ったのはいつ以来だろう。
それでは、殿下パワーで頑張らせていただこう。