12/4 (金) 13:00 接し方

沢渡くんがいない間を狙って、沢渡家でお昼ご飯をいただくことになった。

「すみません。わざわざこんなむさ苦しいところに」

「いえ。それよりも、相変わらず料理がお上手ですね。とてもおいしいです」

こういう家庭料理を味わえるのはとても嬉しい。

「ところであの・・・、希が何か問題でも起こしましたか?」

・・・祥子さんは心配顔で箸を手にしようとしない。

「違いますよ。今日は僕が勝手に、祥子さんにお目にかかりたいと思って伺っただけです。どうぞお楽になさってください」

はい・・・、とその表情が和らぐ。

「沢渡くんの様子はいかがですか?」

「相変わらずです。夕食は家族でとるようにしていますが、あまり話はしてくれません。それでいて、することがあるから、と、すぐに部屋に戻ってしまうんですよ」

・・・これでは、家にいる意味がないじゃないか。

「希も、合わせようとしてくれているのですよ。例えば、買い物に付き合ってほしいと言えば一緒に行ってくれます。でも普段は・・・。それでも、部屋にピアノを置いてからは、いい曲が流れてきて嬉しいんですけどね」

「彼はどんな曲を弾いていますか?」

「ごめんなさい、曲の名前までは分からないんですけど・・・、静かでムードのある曲が多いです。それもたまには、側で聴かせてもらいたいと思っているんですけど、なかなか入り辛くて」

・・・沢渡くんは、人前で弾くのも嫌いではないと思うんだけどなあ。でも曲調からすると、家にいる間のもやもやを晴らしている感じがしないでもないかな。

「沢渡くんは、祥子さんがお願いすれば何だってしてくれると思います。家族に対しては自己表現が下手なんですよ、どうしていいか分からない。だから、とりあえず何でも言ってみてください。もしそれで沢渡くんのバランスが崩れるようなら、僕が彼の相談に乗ります。また、祥子さんも全然遠慮しないでください。お互いをぶつけ合わないと、壁は越えられないのではないでしょうか」

祥子さんは小さくなって頷かれた。

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