自宅に帰っていると思っていたのに、沢渡が部屋に入ってきたので驚いた。
「なんだ、もう帰ってきたのか」
「何その言い方。今日は、ビデオドラマが完成したから観てもらおうと思って持ってきたの」
ああ、例の。前回は公私混同でボロボロになったと言っていたが、今回はどうか。・・・全く、部活が気分転換になっているならいいが、トラブルの元になっているのだったら意味がない。
「今回は順調だったんだよ。出来もいいと思う。・・・でも忙しい?」
そんなわけないだろ。ぜひ見せていただこうじゃないか。
なるほど、今回は名作を演じたわけか。・・・でも正直驚いた。俺たちの中ではコミカルな役回りは響だ。沢渡はいつも、年下だからということもあるが、一歩引いている。なのに、どんどん口を挟んできては厄介ごとを引き起こす沢渡というのも、なかなか面白い。
「よかったよ」
俺は素直にそう口にしていた。響もきっと喜ぶだろう。
「今後もいろんなお前を見せてくれ」
「結城が誉めるなんて不気味」
・・・言わせたのはどっちだ。
聞くと、今夜も自宅に帰るというので、送っていくことにした。・・・心境の変化でもあったのだろうか。
「別に何もないけど、家もいいなと思うようになって」
ちなみに、先日響が祥子さんに会ったことは内緒である。
「ほら、この間のテニス大会で、殿下の凄さを見せつけられたというか・・・。僕には余裕がなさ過ぎるんだね。仕事はもちろん大事だけど、もっと長い目で見て、よい雰囲気やチームワークを作ることが大事なんだって分かったんだ。だからちょっとクールダウンしようかと思って」
・・・のわりには、部屋にこもってるって聞いたぞ。何をやっているんだ?
「最近は結構本を読んでいるんだ。朝霧が、僕が休んでいる間にたくさん本を読んだって言っていたから、それもいいかと思って。・・・はっきり言って、宮殿にいてもあまり本を読まないから」
それもまたいいだろう。自分の時間を有意義に過ごすことが出来るのなら。
「じゃあな、おやすみ」
俺が腕を伸ばしかける・・・と、沢渡はサッと身を引いた。
「おやすみ」
・・・クソッ、逃げられたか。