12/11 (金) 22:00 過去と現在

「具合はどう?」

と心配してくれるのは沢渡だけだ。感染するから近寄るな、と言っているのだけど、僕はその型のワクチンを打っているから大丈夫、と、夕食の後は側に座っていてくれる。

「今日は大分マシだ」

昨日までは全然食べられなかったのに、やはり身体は正直だ、今日には空腹感が襲ってきて、おかゆや響がくれた果物を食べている。

「結城が寝込むなんて、本当に調子が狂っちゃうよ。だって、僕が結城を見下ろしたことなんて、今まで一度もなかったんだからね」

そしてニコニコと俺に笑顔を投げかけてくる。・・・かわいくない。

「そんなこと言って。俺が治った途端にお前が寝込んだりしても、看病してやらないぞ」

「分かってる、大丈夫だって。・・・結城こそ、そんなこと言っていいの?僕がいないと寂しいんじゃない?」

・・・クソー、図星だ。まだ頭がガンガン痛いので、テレビを見たり、本を読んだりする気分にはなれない。かと言って、ずっと寝ているのもそろそろ飽きてきた。

「でも、俺はまだ喉が辛いから、できればお前が話をしてくれ」

そして沢渡は、一人で話すのは嫌だと言って、最近読んで面白かったという本を読んでくれることになった。

本を読んで聞かせてもらうなんて何10年振りだろうか。・・・おそらく子どものとき以来だ。逆に沢渡には何度も読んでやってことがある。昔一緒に住んでいたとき、俺がベッドで本を読んでいると、一緒に読みたいと言い出した。しかし早く寝かしつけなければならないので、やむなく、俺が読んで聞かせることになったのだ。・・・それがまた、話の途中で寝ると分からなくなるからということで、必ず最初の1章、または2章くらいは気合いを入れて起きていて、次の日には曖昧な章から読み直させるという無駄のなさ・・・懐かしいな。

そして今の沢渡は・・・、声には、響のそれとは違う透明感があり、部活のおかげか発声がよくなった。滑らかな読み方、感情移入も過多でなくちょうどいい感じ。話の世界がそのまま眼前に浮かぶようで、素晴らしい。・・・病人も悪くない。

「治ったら礼をさせてくれ」

「いいよ、そんなの別に。そのエネルギーを早く治すことに使って」

ありがとう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です