そして自宅に戻ると、更に何かが届いていたようで、母も驚いていた。
「モテモテで大変ね。・・・本当に彼女はいないの?」
・・・母には言えない。それに、僕は愛する人から愛されたい、誰でもいいわけじゃない。
夕方には殿下もいらして、本格的に料理が始まった。・・・こういう時、僕は見ていることしかできない。隣の結城もまたしかり。
しかし間もなく豪華なメニューがテーブルに並び、殿下が場を和ませてくださったおかげで、食事はとても盛り上がっていた。いつも聞き役の父までもが話に参加しているくらいだ。
そこへ、玄関のチャイムが鳴った。
「希、上柳さんっていう女の子よ」
ドキッ。
「あら?何か問題でも?寒いのに来てくださったのだから、顔だけは出してきなさい」
はい。・・・どんな顔をして会えばいいんだ?チラリと殿下をうかがうと、期待の眼差しを向けられた。
「はい」
と返事をしてドアを開けると、上柳さんが寒そうに立っていた。
「ごめんなさい、家まで来ちゃったりして。・・・あ、お客さん?」
彼女は玄関を覗き込んでいた。そこにはたくさんの靴。
「親戚が来てくれているんだ」
「そう、じゃお邪魔しないようにしないと。・・・これを渡したかっただけなの。ごめんなさい、もう迷惑はかけないわ。私、転校することにしたから」
え~、転校?・・・僕のせいで?
「もう、クリウスにはいられない。あまりにも辛すぎる・・・」
「そんな・・・」
「もう決めちゃったことなの。・・・2学期いっぱいで消えるから安心して」
消えるって、そんな言い方しないでよ。しかも、クリウスから転校して・・・どこに行くの?
「今までありがとう。・・・私は沢渡くんを好きになったことを後悔してない。・・・今までありがとう」
あ、待って、上柳さん!・・・でも追いかける間もなく、彼女は走り去ってしまった。あまりに突然のことすぎて、何が何だかよく分からない。
「こら沢渡、何やってる?」
どのくらいそうしていたのか、僕は玄関の外に座り込んでいて、結城に連れ戻された。
「バカだな、風邪ひくぞ」
だって・・・、と結城に事情を説明する。
「僕は何てことを・・・」
「お前のせいじゃない。仕方がなかったんだよ。・・・お前だって、好きでもない人と付き合って自分に嘘をつくと辛いことになる。彼女もお前も、できる限りのことはした。それで十分だ」
そして僕は・・・、昨夜の有紗さんのように、結城の胸で泣いていた。
「世の中には、どうにもならないことだってあるんだよ。得るものがあれば、失うものもある。それが人生なんだ」
まだ殿下のように割り切って考えることなんてできません。・・・僕は彼女を傷つけた。彼女も、昔の僕のような思いをしているのかと思うと、胸が張り裂けそうになる。
そんな時、結城が首筋にキスをしてきた。・・・ああ。
「お前は今日の主役だろ。・・・しっかりしろ、泣くのはあと」
うん・・・。