今日は終業式。・・・もう、教室で上柳さんに会うことはない。でもみんなは冬休みに浮かれて、彼女に気をとめることはなかった・・・。
「じゃあな沢渡、また来年」
「またね、沢渡くん」
明るく挨拶をしてくれる人がほとんどだけど、心から僕のことを憎んでいる人もいるわけだ。今までに断った、他の女の子たちもそうなのだろうか。
「決めた。“一夜だけの魔法”というのはどう?」
でも今日の部活で、上柳さんは明るい顔をしていた。
「その夜妖精が訪れて、夜が明けるまで二人に魔法をかけるの。いいよね、沢渡くん」
それは、一夜だけ結ばれる・・・ということ。
「いいよ。何なりと申し付けて」
僕は素直にホッとしていた。彼女に何も出来ないまま別れてしまうのは辛い、それに、たとえ無茶なことでも、何か出来るほうが後味はかなりよくなるに違いない。
しかし驚くのはまだ早かった。沙紀ちゃんと朝霧が全身白のドレスとスーツを着て妖精を演じること、僕たちはコミカルにかつドラマティックに踊ること。そして音楽の終わりと共に夢から覚めて、また日常に戻ること。そしてまたその音楽、と、すべてを考えてくれてあったのだ。・・・いつの間に。
「パッと閃いちゃったのよ。まるで私が観客としてみているかのように、ありありと」
・・・そういうものなのだろうか、だとしたら余計に、演劇部からいなくなってしまうのはもったいない気がするんだけど。
帰りの車の中で朝霧が聞いて来た。
「本当に迷惑だと思ってないの?」
・・・何が?
「だって、勝手に好きになられただけなのに、責任まで感じてしまって。・・・沢渡がそこまで思い入れることはないと思うんだけどね」
「そんなことないって。上柳さんが受けた傷に比べたら・・・」
「ううん、沢渡が一人で深刻にしているだけだよ」
・・・どうしてそこまで言い切れる?朝霧。