折角みんな正装して集まったのに・・・、お酒は入っていないはずなのに・・・、みなさんくだけすぎていませんか?
上柳さんが転校してしまうことは、すでに部長から告げられている。知らなかった人たちは、彼女の周りに集まって離れない・・・みんな残念に思っているのだ。でも僕のほうとしては、顔を合わせずにいられることにホッとしている。
ちなみに先ほど、1月に撮影する分の台本が配られた。僕は兼古先輩の義理の弟役で、義母から肉体関係を迫られているという役どころ・・・これまた新境地、だけどヤバくないんですか?
「迫られているお前って興味ある。どんな風に演じてくれるのか、楽しみだよ」
あの・・・、実は前から気になっていたことなんですけど、
「先輩は、どの辺りから製作に関わっているんですか?原案の段階からですか?・・・それとも、原案だけは部長のものなんですか?」
それはな・・・、と兼古先輩は実に楽しそうに、僕の肩に腕を回した。
「俺もお前らと一緒で、台本が出来上がってくるのを楽しみに待っているだけだよ。ただ・・・、こんな沢渡を見てみたい、というのは普段から美智に吹き込んでいるから、その影響はあるかもな」
・・・結局は、兼古先輩が一番楽しんでいるんじゃないですか。まったくもう。
「でもお前、上柳さんと話して来いよ」
はい、それは分かっています・・・。沙紀ちゃんから言われたこともあるし・・・、でもどうしたら?
そして僕と彼女が話す機会がやってきた。
「一番最初のビデオドラマ撮影のとき、本当に楽しかったわ。ずっとそれが続くとよかったのに・・・」
そうだったね。あの時は僕もただがむしゃらに演じていただけだったけど、今思えば、それだけ集中できていたということでもあると思う。
「でも・・・ありがとう。沢渡くんに出逢えたことは一生忘れない」
僕も、決して忘れることはないと思う・・・。
「最後に一つだけ聞いてもいい?・・・恋人ってどんな人?」
・・・僕はためらった。・・・でもこれがいい機会だとも思った。もう彼女とは会わないのだから、構わないだろう。
そして僕は携帯電話を取り出し、有紗さんとの写真を見せた。
「・・・当然よね。私なんかが敵うはずない」
それじゃあ・・・、と、彼女は手を振って去っていった。