「いいじゃないの貴くん。私たちは、これからずっと一緒にいられるんだから」
結局、三人でイベントを見に行き、その後バーに移動した。・・・舞がそう言うなら仕方ないけど、内心はかなり面白くない。モーリスは舞にばかり話しかけている。物理学の教授がこんな賑やかな街中のバーにいるとは思えないけれど、人が多いところのほうが自然に接することができる。ただ、世の中そんなにうまく行くのか・・・、と思っていたら、
“行ってくる”
モーリスは即座に立ち上がって、一人で現れた彼女に近づき、僕たちの席に連れてきた。
“確か、ホーンスタッドの殿下ですよね。お目にかかれて光栄です”
モーリスから紹介される前に彼女から握手を求めてきたので、僕もそれに応じ、舞を紹介する。・・・やや年上の女性だ。いかにも知的な印象だけど、服装は結構カジュアル、なのは、一人の休暇を楽しんでいるからだろう。男性の目をそれほど意識してはいない感じ。
一方のモーリスはと言えば、彼女を連れて来たものの、その彼女が一方的に僕に話しかけてきているので、入ってこれない様子。誰もが認める容姿端麗な男は、自分がほとんど無視されてしまっているのが面白くない、と同時に、緊張ゆえにうまく言葉を発することができない、みたい。・・・こんなモーリスを初めて見た。でも、ちょっとかわいそうかも。
“お二人は、どこで知り合われたのですか?”
すでにモーリスからは聞いていたことだけど、彼女の口から聞いてみたくなった。そうすることで、彼女のモーリスに対する印象を聞けるかもしれないと思ったからだ。
“おそらく、私の話などお分かりになりませんでしたでしょうに、熱心に耳を傾けてくださいました。珍しいお方ですわ”
“どのような研究をされているのですか?”
・・・は聞いてみたけれど、僕にもあまり理解できなかった。モーリスはよく興味を持てたね。
“それが普通の反応ですよ。ですが、モーリス殿下は興味を示してくださったのですから、とても驚きました”
ならば、印象はよかったというわけだ。・・・ほら、モーリスも何か言ったら?
“こちらにはいつまでいらっしゃるのですか?”
“あと一週間はいますわ”
“ここでお目にかかれたのも何かの縁ですから、一緒に夕食などいかがですか?”
“ごめんなさい。明日彼が参りますので、遠慮させていただきます”
本当に?・・・そんなリサーチはしなかったのだろうか。