「どうも信じられないんだよね」
モーリスは、よほどショックだったのかあの場からフラフラと立ち去り、それっきり音沙汰がない。よって僕たちは静かな時間を取り戻すことが出来たのだけど、気になって仕方がない。・・・それは舞も同じようだ。
「私も、彼氏が来るというのは嘘かもしれないと思う。でもいずれにせよ、彼女はモーリス殿下に興味がないみたいね」
残念ながらそのようだ。でもこう言っては失礼かもしれないけれど、そこまで男性に対して慣れているとは思えない。何せ、モーリス殿下は外見に関しては絶世の美男子として有名だ。その彼を相手に、顔色一つ変えないであっさりと断るなんて、なかなかできることではない。・・・舞ですら、すっかり彼に目を奪われていたくらいだから。
「それどころか、男には全く興味がないと考えるべきなのかな?」
「でも・・・、貴くんにはかなり興味を持っていたみたいよね」
「他人のことを言っている場合か?舞こそ、モーリスに興味があるみたいじゃないか」
「それはねえ・・・」
コラ、笑って誤魔化すな。でも二人の意見は一致した。彼女のことを調べてみよう、と。
しかし明日の結婚式のために隣国に移動しなければならない。だから調査は仕官に任せることにして・・・、モーリスにメールを書いた。まだ彼女のことが気になるか?と。
ホテルに着くと、僕たちの同級生が多く集まっていた。久々に会う人たちも何人かいる。しかし、いずれも、若くして会社を興していたり、ニュースキャスターを務めていたり、芸術家だったりと、世間で活躍している人たちばかりなので、情報は自然と耳に入って来ていた。
「殿下、久しぶり。いつもテレビで見ているよ」
・・・ここでは、殿下はやめてよね。
「結婚間近なんだって?いつ?」
「まだ分からないわ。殿下と結婚しようと思うと大変なの」
「殿下とじゃないだろ、響貴久と結婚するんだよ」
「貴くんと結婚するということは、そういうことじゃない」
そうなんだけど・・・、と思っていたら、相変わらず仲がいい、と笑われた。
僕たちが高校を卒業してから間もなく10年になる・・・というのは信じられない。確かに多くのことを経験してきたと思うけれど、顔を合わせると昔と同じような話をすることができる。それがとても嬉しい。