仕事以外に話しておきたいこともある。夜、遅い夕食のときに、僕は休暇でのことを語って聞かせていた。
「モーリスも本当に、いかにもな王子様だよな・・・」
結城はすっかり呆れ顔である。
「お前が一般人を恋人にしているからってことで、真似をしたいだけなんだろ」
「でも恋のチャンスはどこにだってあるわけだし、僕の場合はそれがたまたま同級生だっただけで・・・」
「モーリスにはそこまで分かっていない。とにかく小さい頃から押さえ込まれて育ってきたわけだから、自分の意志で何かをすることなんてなかったんだよ。その点から見ると、今回のことは大きな進歩と言えるかもしれないけれど、人騒がせなことは確かだな。・・・まあ、いい友達を持って幸せなことで」
・・・またそうやって。でもそうなのかな?僕の真似を?
「いいじゃないか。気にしないで放っておけよ。それよりも、舞さんとの話は進んでいるのか?」
・・・待って。僕の真似を、というのがどうも引っかかる。
「だったら、舞が危ないっていうことなのかな?」
「何が?」
「モーリスだよ。何かにつけ、冗談ぽく舞の気を引こうとしているんだけど、それも冗談では済まされなくなってくるということなのかな?」
・・・でなかったら、言葉までは勉強しないだろう。僕と話をするのにホーンスタッドの言葉を使ったことなどなかったのだから。怪しいって?
「結婚間近だと言っているのにわざわざ波風を立てに来るほど、バカではないことを祈るばかりだな。多分モーリスにとって物理学者は、相手にするには物足りなかったんだろう。しかし、響が相手となると余計に燃えるかもしれない。・・・でも、お前ら友達なんだろう?お前らの友情はそんなに危ういのか?」
そんなことはないけど・・・、僕は仕事仕事って言い過ぎていないかな?と我が身を振り返るいいきっかけになったということだよ。気をつけておかないと。それから、結婚の準備を進めておかないと。
それから、例の彼女については更に情報が入ってきていたが、特にめぼしいものはなかった。・・・僕を意識していたのも、たまたまだったのかな?そう思うと、僕の人を見る目も怪しい気がする。
「今年の目標は?」
「俺か?・・・沢渡をしっかり育てること」
「それじゃあ、僕と一緒じゃない」
「何言ってんだ。お前は、舞さんと幸せな結婚をすること、だろ?」
・・・そうだね。舞を幸せにしてあげないと。