私は意地を張りすぎている?・・・でもやっぱり希には会いに行けない。その代わり今日は宮殿内で希に会うことができた。希が陛下の執務室に来たから。
希は私を見ると会釈をして、すぐに陛下に向き直った。そこで私の役目はおしまい。控え室で待つだけ。
どうして希がよかったのかと聞かれても答えるのは難しいけれど、彼もまた、居場所を見つけられないでいるようだったということは関係ある。そして幸いなことに王宮には女性が少ない、希に興味を持つ人はほとんどいない、こんなにカッコよくて従順な人は他にいない、といういいことばかりがたまたま重なり彼を選んだことは、ごく自然なことだった。
そんな彼も、付き合い始めてから随分成長したと思う。というのは、周りから希に対する評判や噂話を聞く機会が増えたのだ。
「沢渡さんは頼もしいですね」
「よく勉強していらっしゃる」
「どんな方なのか興味があるわ」
「若いというのは素晴らしい。私は彼にはついていけません」
など。今のところはとりあえず悪い話は聞いたことがない。だから、そんな彼が私の恋人なのだと思うと、嬉しくてたまらない。
その時、ドアが開いて希が出てきた。彼はいつものように、私には礼儀として会釈しただけで、特別なことはせずに控え室から出て行った。・・・私しかいなかったのだから、少しくらい微笑んでくれてもいいのに。・・・でも、他人には気づかれないようにと言ったのは私だから、しょうがないか。でも、希は、私が最近低調なのに気づいてくれただろうか?・・・先日の殿下のように。見ないフリをして見てくれているのだろうか、気になる。
「どうした、有紗?」
いきなり声がしたので驚いた。どうやら、希が去ったあとのドアを見つめてしまっていたらしい。
「いえ、そろそろお花の換え時かと見ていたところです」
ちょうど一緒に視界に入っていたドアの横の花瓶のことに触れておく。
「そうか。・・・沢渡くんは頼もしすぎるよ。末恐ろしい」
陛下は沢渡くんに対して甘い。私のことよりもずっとずっとかわいがっていらっしゃる。
「でも有紗には年下過ぎるね」
・・・そうきっぱりおっしゃってくださると、返す言葉がなくなってしまうのですが。