「有紗さんがいるって分かっていても、ドキドキしてしまうんですよね」
希はかわいいことを言ってくれる。・・・そう、昨日会ったときも、内心は嬉しかったけど努めて冷静を装っていた、と。
「別にいいのよ、誰もいなければ」
「それはダメですよ。どこで誰が見ているか分かりませんし、一旦崩れた顔をまた戻すのは大変ですから」
・・・そっか、希は律儀なのね。・・・それは嬉しいようでつまらない。
「あのあと、陛下がおっしゃったわ。“沢渡くんは年下過ぎる”と。もし私たちのことがバレたらどうなさるかしら?」
そう言うと、希はしばらく黙り込んだ。
「僕は別に、バレても構わないんですよ。ただそれでは、有紗さんに迷惑がかかると思い、控えているのです」
・・・その真剣な眼差しに吸い込まれそうになる。
「随分自信がついたようね」
「僕のことを大人の男として認めてくれますか?」
そうね・・・、今の希ならいいかしら?
「でもあなたはまだ結婚できないわ。その意味からいくとまだ子どもね」
「はぐらかさないでください」
更に希は、精神的に私を追い詰める。・・・迫力が出てきた。
「昨日の有紗さんの様子が心配だったんですよ。声を掛けたかったんですけど、余計に動揺させてしまうんじゃないかと思って、見なかったフリをしたのです。・・・あれからどんなに気になっていたことか」
顔が崩れる・・・というのは私のことだったの?ちゃんと気づいてくれていたのね。
「希・・・」
すると彼は、長い腕で私のことを包み込んでくれた。・・・ほしかったのはこの温もり。
「もっと僕のことを信用してくださいよ。緊急事態のときには呼んでください」
信用という言葉が希からも・・・、でも、殿下から聞いたわけではなさそうだった。殿下が軽々しく話されたりするはずがない。
「そうね。これからはそうするわ。希に抱きしめてもらえるだけで解決するなら、何日も悩んだりするのはバカみたいね。その間に老けてしまうわ」
「有紗さんにはいつまでも綺麗でいてほしい・・・」
そしてキス・・・。今夜は希に話してもいいかな、と思った。